2011年8月28日,第40回日本アレルギー学会専門医教育セミナー(東京都)が開催され,私も出席して来ました.本セミナーのなかで,「尋常性魚鱗癬」(いわゆる「さめ肌」)の原因として知られていたフィラグリン遺伝子異常が,アトピー性皮膚炎の発症に関与しているという講演(名古屋大学皮膚科)があり,非常に興味深いものでした.

アトピー性皮膚炎は,遺伝素因,乾燥肌(ドライスキン),食物アレルギーなど,その原因は多様です.アトピー性皮膚炎の双生児での発症一致率は二卵性では15%ですが,一卵性では77%です.両親にアトピー性皮膚炎がない場合に比べ,子の発症リスクは父母のいずれかにアトピー性皮膚炎がある場合には2倍に,両親にアトピー性皮膚炎がある場合には3倍になります.このように,遺伝素因はアトピー性皮膚炎発症に重要な役割を果たします.

ヒトを含む哺乳類の先祖は元々海中で生活していました.陸上で生活するにあたって乾燥した外界に適応するために,皮膚を「角化」し,体表面からの水分蒸散量をコントロールしかつ外界からの異物侵入を防ぐ必要が生じました.正常な皮膚の角化に必要なタンパク質が「フィラグリン」です.フィラグリンの欠損あるいは減少は,皮膚保湿機能の低下とともに皮膚バリア機能の障害を起こします.その結果,乾燥肌になり,ハウスダスト,ダニなどの吸入抗原あるいは卵白などの食物抗原などの体内への侵入を許し,アトピー性皮膚炎,気管支喘息,アレルギー性鼻炎,食物アレルギーなどの様々なアレルギー性疾患を引き起こします.

従来から尋常性魚鱗癬の患者では,アトピー性皮膚炎の合併が多いことが知られていました.ヨーロッパ諸国での研究により,尋常性魚鱗癬の家系から13のフィラグリン遺伝子異常が発見されました.しかし,ヨーロッパ諸国で発見されたフィラグリン遺伝子異常は,日本人尋常性魚鱗癬患者には確認されませんでした.その後の研究により,日本人患者にはヨーロッパ諸国の患者とは別の8つのフィラグリン遺伝子異常が発見されました.また,日本人アトピー性皮膚炎患者の27%に,8つのいずれかのフィラグリン遺伝子異常があることが認められました.尋常性魚鱗癬の原因であるフィラグリン遺伝子異常は,アトピー性皮膚炎の発症に関与していることが明らかになりました.

フィラグリン遺伝子異常は,教科書的には常染色体優性遺伝と記載されていますが,実際には常染色体準優性遺伝です.すなわち,病的遺伝子を1つだけ持つ場合には軽症であり,同じ病的遺伝子を2つ持つ場合には重症になります.あるいは異なる2つの遺伝子異常を持つ場合にも重症になります.

アトピー性皮膚炎は,80%の外因性アトピー性皮膚炎と20%の内因性アトピー性皮膚炎に2大別されます.前者は血清IgEが高値で,乳幼児に多く,重症例が多く,フィラグリン遺伝子異常が多い傾向があります.一方,後者は血清IgEが正常で,成人に多く,比較的軽症で,フィラグリン遺伝子異常がなく,金属アレルギーの関与が多い傾向があります.通常,前者をアトピー性皮膚炎と呼びます.フィラグリン遺伝子異常は,アトピー性皮膚炎の発症・悪化因子として重要です.

フィラグリン遺伝子異常を持つ場合には,皮膚角化異常により皮膚バリア機能が破壊されます.アレルゲンの侵入を許し体内でアレルギー反応が起き,アトピー性皮膚炎を発症し皮膚に炎症が起こります.炎症が起きた皮膚では痒みが増すため掻いてしまい,皮膚バリアがさらに破壊されます.適切な治療をしないと悪循環に陥り,アトピー性皮膚炎はさらに悪化してしまいます.

フィラグリン遺伝子異常の研究などから,皮膚バリア機能の異常がアレルゲンによる経皮感作を引き起こすことが明らかになりつつあります.アトピー性皮膚炎,乾燥肌がある場合には,ステロイド外用剤や保湿剤で積極的にスキンケアをすることで,気管支喘息,アレルギー性鼻炎,食物アレルギーなどのアレルギー性疾患の発症を阻止する可能性が示唆されています.乳幼児期からスキンケアを行うことは重要です.正しいスキンケアについて,当院に是非ご相談ください.適切なアドバイスを行います.