2000年までは,マイコプラズマ肺炎は4年ごとに流行し,「オリンピック肺炎」と俗称されていました.2000年以後,マクロライド系抗菌薬のジスロマックの導入によって,4年ごとの流行のピークはなくなりました.一方で,マクロライド系抗菌薬が効かない耐性マイコプラズマが出現してしまいました.2009年にニューキノロン系抗菌薬であるオゼックスが導入され,マイコプラズマ肺炎とくに耐性マイコプラズマの治療に用いられるようになりました.2010年には,日本で耐性マイコプラズマが大流行しました.これを受けて,小児呼吸器感染症診療ガイドライン2011(2011年4月15日発行)には,マクロライド系抗菌薬を投与して48時間経過しても解熱しない場合にはオゼックスまたはテトラサイクリン系抗菌薬を用いる,と記載されました.ただし,テトラサイクリン系抗菌薬には,8歳未満の小児には他剤が使用できないか無効の場合に限って使用すると注釈が付けられました.

マイコプラズマ肺炎に対しては,マクロライド抗菌薬は感性もあれば耐性もあります.ニューキノロン系抗菌薬は有効ですが,耐性を獲得しやすいという欠点があります.クリンダマイシンは臨床的には有効ですが,十分な医学的根拠は示されておらず有効性が確立されていません.テトラサイクリン系抗菌薬のミノマイシンは100%感性で,臨床的に最も有効です.マイコプラズマ肺炎は合併症が多く重症になる場合もあり,ミノマイシンを使わざるを得ない症例も少なからず存在します.

テロラサイクリン系抗菌薬を幼少児に投与した場合,副作用として歯牙の黄染が起こることがあります.1970年前後にはテトラサイクリン系抗菌薬が盛んに使用されました.このため,1969年には,妊婦,新生児,乳幼小児への投与についての注意が添付文書に記載されました.その後も,テトラサイクリン系抗菌薬による変色歯が多発したため,1998年には8歳未満の小児に対する投与について着色歯発生の警告を強化した添付文書に改訂されました.テトラサイクリン系抗菌薬であるアクロマイシン,ミノマイシン,ビブラマイシンの添付文書には,「小児(特に歯牙形成期にある8歳未満の小児)に投与した場合,歯牙の着色・エナメル質形成不全,また,一過性の骨発育不全を起こすことがあるので,他の薬剤が使用できないか,無効の場合にのみ適用を考慮すること.」と記載されています.

歯科における変色歯外来の患者の50%は,テトラサイクリン系抗菌薬が原因です.変色歯に気付くのは,小学校高学年から中学生以後です.自分自身で気付くのが74%で,残りは家族や友人に指摘されて気付きます.テトラサイクリン系抗菌薬は,hydroxyapatite Ca+と歯芽形成期にキレート結合し,テトラサイクリン(TC)-Ca Orthphosphate Complexを作ります.石灰化期には基質にカルシウム塩が沈着し,基質が硬化します.したがって,テトラサイクリン系抗菌薬による着色歯は萌出期には既に着色しています.第1大臼歯の歯冠形成は2.5-3歳,中切歯は4-5歳,第2大臼歯は7-8歳,第3大臼歯(親知らず)は12-16歳です.第2大臼歯の歯冠形成が7-8歳のため,テトラサイクリン系抗菌薬は8歳未満では投与が厳しく制限されています.テトラサイクリン系抗菌薬による着色歯の発現は,服用量,服用回数,服用期間とは無関係です.使用すれば,必ずキレートが作られます.着色歯が起きるかどうかは,投与された個人の感受性により決定されます.したがって,1回だけの投与でも着色歯は発生します.アクロマイシンの着色歯は,明るい黄色で時間が経つと茶色になります.ミノマイシンによる着色歯は,緑色から灰色になります.アクロマイシンの着色歯の方が,より重症です.

このような背景があることから,小児呼吸器感染症診療ガイドライン2011追補版(2013年2月19日発行)には,「8歳未満には,テトラサイクリン系薬剤は原則禁忌である.」と記載され,「テトラサイクリン系薬による歯牙への影響」というタイトルの着色歯の写真が掲載されています.
http://www.jspid.jp/pub/sguideline/2011_tsuihoban.pdf#search= ’小児呼吸器感染症診療ガイドライン’

テトラサイクリン系抗菌薬の8歳未満の小児への投与は,歯牙の黄染が起こることがあるため原則禁忌です.他剤が無効な場合に限り,使用されるべきです.