2016年2月初旬より当院周辺ではおたふくかぜ(流行性耳下腺炎,ムンプス)の流行が始まり,2017年4月現在も患者発生が続いています.

おたふくかぜは,ムンプスウイルスにより起こります.ムンプスウイルスは唾液などの気道分泌物の飛沫感染または接触により感染します.感染力はかなり強く,基本再生産数(1人の患者が周囲の免疫のない人に発症させる平均数)は11-14です.また,流行抑制のために必要な集団免疫率は85-90%です.日本におけるおたふくかぜのワクチン接種率は約30%のため,流行は抑制できていません.おたふくかぜの潜伏期間は2-3週間(通常16-18日)で,唾液腺(耳下腺,顎下腺,舌下腺)の腫脹,圧痛,嚥下痛,発熱を主症状として発症します.通常は,1-2週間で軽快します.両側あるいは片側の耳下腺の腫れが97%にみられ,顎下腺や舌下腺の腫れも20%程度に認められます.唾液腺の腫れのピークは,発症後48時間以内です.唾液腺のほかに,精巣炎が13%,卵巣炎が4%,乳腺炎が10%,膵炎が4%に起こります.おたふくかぜは耳下腺だけの病気でなく,全身疾患です.

おたふくかぜの合併症としてよく知られているのは無菌性髄膜炎で,1-10%に起こります.典型例では頭痛,嘔吐を伴います.おたふくかぜ患者の50%に髄液細胞数の増多が認められたという報告があり,髄膜炎症状を欠く場合もあります.脳炎が0.02-0.3%に起こり,後遺症や死亡に至ることがあります.ムンプスウイルスは,神経親和性が高いのが特徴です.

おたふくかぜの神経合併症として意外と知られていないのが難聴です.内耳有毛細胞が障害を受け,高度の感音性難聴になります.耳下腺腫脹消失後1カ月以内に,難聴や前庭症状を呈します.予後は不良で,有効な治療法はありません.おたふくかぜ患者の1000人に1人が難聴になります.日本では,1年間に500-2000人のおたふくかぜによる難聴が発生していると推測されています.

おたふくかぜによる難聴の多くは聾といわれる極めて高度の難聴ですが,片側性が多いために学童期までは日常生活に支障がなく,見逃されてしまいます.しかし,思春期以後になると,ちょっとしたことが聞き取れず,周囲とのコミュニケーションに障害をきたすようになります.成人期には聴覚障害を強く自覚するようになり,めまいや耳鳴りなどの前庭症状を伴い,社会生活にも支障をきたすようになります.まれに,両側性の難聴が起こることがあり,おたふくかぜによる難聴は決して軽視することができません.

おたふくかぜによる難聴を発見するには,「指こすり」による聴覚検査が有効です.耳下腺腫脹消失後1カ月を目安に行います.検査法は以下の通りです.
(1)子どもの目の前で,親指と人差し指を,少し強めにこすってみせます.そしてカサカサという音が聞こえたら,音が鳴った側の手を上げるように教えます.
(2)次に,親は子どもの後ろに立ち,指が見えたり,髪に触れたりしないように注意しながら,耳の真横5cmくらいのところで,指を軽く5-6回こすります.指こすりの音の大きさは,親の耳にはほとんど届かない程度にしてください.
(3)検査を複数回行い,左右別々に聞こえるかどうかを判断します.

日本における2004-2006年の調査では,おたふくかぜ罹患後7400人を対象に「指こすり」による聴覚検査が行われ7人の難聴が発見されています.最近おたふくかぜに罹患したお子さんはもちろんですが,過去に罹患したことのあるお子さんは是非一度上記の検査をしてみてください.難聴が疑われる場合には当院にご相談ください.

おたふくかぜでは,耳下腺腫脹7日前から9日後までムンプスウイルスが分離されますが,感染力が強いのは腫脹1-2日前から5日後までです.おたふくかぜには,感染しても症状が出現しない不顕性感染が約30%あります.このため,発症者の隔離のみで流行を阻止することは不可能で,ワクチンのみが唯一の効果的な予防法です.

おたふくかぜの流行はしばらく続きそうです.おたふくかぜに罹患したことのない方は,年齢を問わず是非ワクチンの接種を受けてください.おたふくかぜワクチンは2回接種が基本です.1回接種では抗体が減衰してしまいます.必ず2回接種を受けてください.