2017年4月,当院周辺では百日咳患者が散発的に発生しています.4月第1週に,3人の百日咳患者を立て続けに診断・治療しました.百日咳菌は常在しており,患者発生が途切れることはありません.常に注意が必要です.

百日咳は,百日咳菌およびパラ百日咳菌などの類縁菌により起こります.かつては乳幼児を中心とした小児の疾患でした.しかし,2002年から思春期・成人患者の報告数が増加しはじめ,2010年には全患者の52.8%を占めるまでになっています.この傾向は他の先進国でも認められ,患者発生を十分にコントロールできていません.

百日咳ワクチン未接種児では,乾いた咳が続き次第に激しくなり,発作性の連続的な咳き込みの後に大きな息の引き込みを認めるようになります.特有な咳は夜間に強く,咳き込みによる嘔吐,チアノーゼ,無呼吸,顔面紅潮,眼瞼のむくみ,結膜の充血などを伴うことがあります.生後3カ月未満児では特有な咳は少なく,50%に無呼吸,25%に肺炎,1-3%に痙攣,0.5-1%に脳症が認められ,1%は死亡します.5歳未満児の入院率は人口10万人あたり11.8人/年と推定されており,乳児が86%を占め,5.3%に人工呼吸管理が必要であったと報告されています.

百日咳ワクチン接種児および思春期・成人では症状は軽いことが多いですが,発症1カ月以内では発作性の咳,咳き込み後の嘔吐,大きな息の引き込みなどが認められることがあります.診断,治療が遅れ,乳幼児への感染源となることが多いです.乳児の百日咳の感染源としては,両親が最も多く,次いで兄弟姉妹,叔父叔母,祖父母の順です.

百日咳の診断は,年齢,咳の期間や特徴,百日咳ワクチン接種歴に加え,百日咳菌培養,核酸増幅法(PCR,LAMP法),血清抗体価(百日咳菌-IgM/IgA抗体,抗PT-IgG抗体)などの臨床検査により行なわれます.百日咳菌培養は典型的症状がある場合の菌分離率が52%と高く,早期診断法としては有用です.しかし,一般細菌用の培地では百日咳菌は増殖しないため特殊な培地が必要であること,感染後しばらくすると菌は分離できなくなるなど,限界があります.核酸増幅法は,培養よりも感度が早く,死菌でも検出できます.抗PT-IgG抗体は感染後3-4週間しないと上昇しないため,感染後早期の診断には有用ではありません.正確は診断には,数週間の間隔をあけて2回の測定を行い2倍以上の抗体価上昇を確認する必要があります.1回の抗体価測定の場合には,抗PT-IgG抗体が100EU/mL以上であれば百日咳の可能性が高いと診断します.百日咳菌-IgMまたは百日咳菌-IgA抗体が陽性の場合にも,百日咳の可能性が高いと診断します.

当院で4月第1週に経験した3例の百日咳は以下の通りでした.1例目は乳児で,数日前から顔を真っ赤にして咳き込み,咳の勢いで吐くという主訴でした.百日咳菌(LAMP法)が陽性でした.2例目は幼児で,咳が数週間続き,激しく咳き込んだ後に息を止めそうになるという訴えでした.抗PT-IgG抗体が190EU/mLでした.3例目も幼児で,やはり咳が数週間続き,顔を真っ赤にして激しく咳き込んだ後に大きく息を引き込むという訴えでした.抗PT-IgG抗体が160EU/mLでした.3例とも,抗菌薬を投与して治癒に至りました.

2015年1-12月に,当院では364例の抗PT-IgG抗体を調べました.日本では百日咳ワクチンの接種率はほぼ100%であることから,抗PT-IgG抗体が100EU/mL以上の場合には百日咳の可能性が高いということになります.結果は,抗PT-IgG抗体10EU/mL未満が121例(33.3%),10EU/mL以上100EU/mL未満が216例(59.3%),100EU/mL以上が27例(7.4%)でした.抗PT-IgG抗体の最高値は700EU/mLでした.また,100EU/mL以上の27例中2例は成人で,百日咳の子からの家族内感染でした.検査対象には,最終的に気管支喘息と診断されたものが多く含まれています.喘息患者を除くと,遷延する咳嗽患者の10-20%程度は百日咳という結果でした.一方,感染防御に必要な抗体価は抗PT-IgG抗体10EU/mL以上と考えられており,3人に1人は百日咳に罹患する可能性があるということになります.

百日咳ワクチンの接種回数は日本では4回ですが,欧米諸国では5-6回です.また,欧米諸国ではTdap(副作用軽減のためにジフテリア毒素を減量した3種混合ワクチン)を用いて,思春期以後に再追加接種が行われています.日本では欧米諸国に比べ百日咳抗体の減衰が起きやすいという背景があり,感受性者が蓄積しています.

激しい咳が続く場合には百日咳が疑われます.当院に御相談ください.適切に対処します.