2016年2月初旬より当院周辺ではおたふくかぜ(流行性耳下腺炎,ムンプス)の流行が始まり,2017年4-5月現在も患者発生が続いています.患者数は4月中旬以後さらに増加し,流行が終息する気配はありません.

おたふくかぜは,ムンプスウイルスにより起こります.2-3週間(平均18日)の潜伏期間の後に,唾液腺(耳下腺,顎下腺,舌下腺)の腫脹,圧痛,嚥下痛,発熱を主症状として発症します.通常は,1-2週間で軽快します.精巣炎が13%,卵巣炎が4%,乳腺炎が10%,膵炎が4%に起こります.ムンプスウイルスは神経親和性が高く,1-10%に無菌性髄膜炎が起こります.まれに脳炎・脳症を発症し,後遺症または死に至ることがあります.また,難聴が700-1000人に1人の割合で起こります.内耳有毛細胞が障害を受け,高度の感音性難聴になります.耳下腺腫脹消失後1カ月以内に,難聴や前庭症状を呈します.予後は不良で,有効な治療法はありません.おたふくかぜによる難聴の多くは聾といわれる極めて高度の難聴ですが,片側性が多いために日常生活に支障がなく見逃されてしまうことがあります.日本では,1年間に500-2000人のおたふくかぜによる難聴が発生していると推測されています.

おたふくかぜでは耳下腺腫脹7日前から9日後までムンプスウイルスが分離されますが,感染力が強いのは腫脹1-2日前から5日後までです.おたふくかぜには,感染しても症状が出現しない不顕性感染が約30%あります.このため,発症者の隔離のみで流行を阻止することは不可能で,ワクチンのみが唯一の効果的な予防法です.

日本では,おたふくかぜの単味ワクチンが1981年に発売され,1989年にはMMR(麻疹・おたふくかぜ・風疹混合)ワクチンの接種が開始されました.しかし,ワクチン接種後の無菌性髄膜炎の多発により1993年に中止されました.一方,米国やカナダなどでは,1970年代にMMRワクチンが認可され現在も接種が継続されています.先進国でおたふくかぜワクチンを定期接種化していないのは,日本だけです.WHO加盟120カ国の60%は定期接種化しています.世界的には,おたふくかぜワクチンはMMRワクチンとしてほとんど接種されています.1回目は1歳過ぎに,2回目は就学前に接種している国が多いです.米国では1971年に生後12-15カ月での接種が開始され,その後患者数は減少しました.しかし,1984年に患者数が増加に転じたことから,1989年から2回目の接種を4-6歳で行うように追加されました.フィンランドでは1982年に接種が開始され,当初から2回接種でした.接種率は95.8-98.5%に達し,1990年代にはMMRワクチンとして接種されるようになりました.フィンランドからは土着のおたふくかぜは消えました.

現在,日本でおたふくかぜワクチンに使用されている株は鳥居株と星野株です.いずれも抗体獲得率は92-100%で良好ですが,鳥居株では0.08%,星野株では0.05%の割合で無菌性髄膜炎が発生します.一方,世界的に最も多く用いられているJeryl-Lynn株は,抗体獲得率は80-100%でやや不良ですが,無菌性髄膜炎の発生率は0.00005-0.001%で低いです.2004-2005年以後の世界的流行株はG遺伝子型で,1990年代にヨーロッパで分離された比較的新しいウイルスです.鳥居株と星野株はB遺伝子型で,Jeryl-Lynn株はA遺伝子型です.B遺伝子型ワクチンにより誘導された抗体はG遺伝子型ウイルスに有効ですが,A遺伝子型ワクチンにより誘導された抗体はG遺伝子型ウイルスに対する効果が若干落ちることが報告されています.Jeryl-Lynn株は流行株と間に抗原性のずれが生じている可能性があります.

WHOはMR(麻疹風疹混合)ワクチンの接種率が80%を越えている国では,おたふくかぜワクチンを定期接種化することを推奨しています.日本ではおたふくかぜワクチンは任意接種で,定期化されていません.その理由の1つが,ワクチン接種後に無菌性髄膜炎が0.05-0.08%起きてしまうことです.しかし,自然感染による様々な合併症の頻度を考えれば,ワクチン接種を受けるべきです.

おたふくかぜワクチンは,通常,1回目は1歳を過ぎたら直ぐに,2回目は就学前に,いずれも麻疹風疹ワクチンと同時に接種を受けます.1回接種では抗体が減衰してしまいます.必ず2回接種を受けてください.おたふくかぜの流行はしばらく続きそうです.おたふくかぜに罹患したことのない方は,年齢を問わず是非ワクチンの接種を受けてください.