2016年春頃より日本脳炎ワクチンの供給が不安定になり,現在に至っています.日本国内では,「エンセバック」(製造:化血研,販売:アステラス製薬)と「ジェービックV」(製造:阪大微研,販売:田辺三菱製薬,武田薬品)の2種類の日本脳炎ワクチンがあります.製造量は,前者が35%,後者が65%程度です.不足の理由は複数あり,以下の通りです.

(1)2016年4月より,北海道で日本脳炎ワクチンが定期接種化されました.日本脳炎は,都道府県知事が発生状況を考慮の上,予防接種を行う必要がないと認められる区域を指定できる疾病です.近年,日本脳炎患者の発生は年間10人未満で,西日本が中心です.日本脳炎ウイルスの伝播にはブタが重要な役割を果たしますが,北海道ではブタにおける日本脳炎ウイルスの抗体保有率が0%です.このため,2016年3月末まで,北海道は「日本脳炎の予防接種を行う必要がない区域」として指定されていました.しかし,北海道民が道外や海外に行き来する機会が増えたことから,定期接種化されることになりました.この結果,日本脳炎ワクチンの需要が増加しました.
(2)日本脳炎ワクチンの定期接種第1期の対象年齢は生後6カ月以上90カ月未満ですが,標準的には3歳で2回,4歳で1回の接種を受けます.2016年2月23日,日本小児科学会予防接種・感染症対策委員会は,「日本脳炎罹患リスクの高い者に対する生後6か月からの日本脳炎ワクチンの推奨について」というコメントを発表しました.これを受けて,西日本を中心に生後6カ月からの接種を開始する動きがあり,日本脳炎ワクチンの需要が増加しました.
(3)2015年に,化血研の血漿分画製剤が承認書と一部異なる方法で製造されたことが明らかになりました.この影響でエンセバックからジェービックVへのシフトが起こり,ジェービックVが品薄になりました.しかし,その後,結果としてエンセバックへの需要が増してしまいました.
(4)2005年5月30日,当時はマウス脳由来の日本脳炎ワクチンが使用されており,接種後に因果関係は不明ながら急性散在性脳脊髄炎の患者発生があったことから,積極的な接種勧奨が中止になりました.その後,細胞培養日本脳炎ワクチンが導入され,勧奨が再開されました.しかし,この間,接種率が大きく低下し,接種漏れ者が蓄積しました.このため,2016年度には18歳になる者に対する不足接種分の積極的勧奨が行われ,日本脳炎ワクチンの需要が増加しました.
(5)2016年4月14日,熊本地震が発生し,熊本県内にある化血研のワクチン製造工場が被災しました.製造途中にあったエンセバックの中間製品が廃棄され,生産量が減少しました.

接種機会確保のため,2016年から化血研はエンセバックを前倒しで出荷していました.しかし,熊本地震による被災が決定打となり,ついに2017年5月8日,化血研はエンセバックの供給停止を発表しました.在庫がなくなり次第,エンセバックは欠品になります.エンセバックの製造工場は復旧済みで,製造も既に再開されています.2018年1月頃には,出荷が再開される見込みです.

2017年5月8日付けの厚生労働省健康局健康課の事務連絡には,「日本脳炎ワクチン全体に係る供給の見込みを改めて検討した結果,現時点において,日本脳炎ワクチンの全国的な不足は生じない見込み.」と記載されています.しかし,実際には,2017年4月末の時点で,当院では100人を超える接種希望者がいて,2カ月半から3カ月待ちの状態です.2018年1月までは市場にはジェービックVしか存在しないため,今後8-9カ月間は状況の改善は見込めません.

日本脳炎ワクチンの互換性については,厚生労働科学研究事業で「有効と考えられる」との見解が出されています.エンセバックとジェービックVを交互に接種しても問題はありません.

日本脳炎ワクチンの接種をご希望の方は,申し込みをしてください.ただし,前述した事情があるため,申し込みから接種まで2カ月半から3カ月かかります.