2017年5月,当院周辺で複数のロタウイルス胃腸炎患者の発生が確認されました.今後流行する可能性があります.

小児の感染性胃腸炎の原因はウイルス性のものが多く,ロタウイルス,ノロウイルス,アデノウイルスなどが病原体として知られています.検出頻度はそれぞれ60-70%,20-25%,8-9%で,ロタウイルスが最多です.

ロタウイルス胃腸炎は,例年寒さが緩む2-3月頃に流行します.ときに他の季節に流行します.好発年齢は2歳以下です.母親からの移行抗体が消失する生後6カ月頃から発症します.乳児期後半以降もロタウイルスの感染は繰り返し起こりますが,重症化する確率は減ります.

主な感染経路は糞口感染で,潜伏期間は2-3日です.患者の便1g中に10の11乗個の大量のロタウイルスが存在しますが,1-10個のロタウイルスで感染が成立してしまいます.ロタウイルスは感染力が極めて強いのが特徴です.下痢出現の2-3日前から糞便中にウイルスが排泄され,その後1-2週間持続します.間接接触感染も知られていて,おもちゃや衣類などを介して感染が広がります.保育所などで毎年のように集団発生が起きています.

主な症状は,発熱,嘔吐,下痢,腹痛です.病初期に発熱と嘔吐が出現します.発熱は40-60%にみられ,通常は2日間で解熱します.嘔吐は60-90%の症例に出現し,通常2日目以後は減少し,その後下痢が始まります.下痢の性状は水様便が多く,約半数の患児に,豆腐をつぶした,あるいは紙粘土のような白色便,クリーム色便が認められます.下痢は1日数回から十数回に及び,7-14日間続きます.便が白いうちは治っていません.便の色がつき始めて2-3日してやっと治ります.一旦便が元の色に戻っても,また白い便になり,ぶり返すことがあります.1日10-20回以上の激しい嘔吐や下痢により脱水や電解質異常をきたします.一晩で高度の脱水に陥り,命にかかわることがあります.合併症として肝機能異常,痙攣,まれに脳炎・脳症があります.年長児や大人では下痢がなく,お腹が痛い,吐き気がある,食欲がないだけのこともあります.便中のロタウイルスを検出する迅速診断キットがあります.陽性の場合にはロタウイルス胃腸炎と診断します.病期を失すると陽性を示さないことがあるので,陰性でもロタウイルス胃腸炎を完全には否定できません.ロタウイルスに対する特効薬はないので,吐き気止め・下痢止めを服用して自然治癒を待たなければなりません.脱水にならないように十分な補液が必要です.経口摂取ができない場合には点滴が必要です.点滴路の確保が難しい乳児や排尿がない,目が落ち窪んでいる,ぐったりしている,皮膚に張りがないなどの重症例では入院が必要になります.

ロタウイルス胃腸炎によって全世界で1年間に45万人の5歳未満児が死亡し,この年齢層の全死亡の5%を占めると推定されています.激しい下痢症の30-50%は,ロタウイルス胃腸炎です.重症下痢症に占めるロタウイルス胃腸炎の割合は,先進国も途上国も同じです.日本では,ロタウイルス胃腸炎により小学校入学前までに2人に1人が医療機関を受診し,15-43人に1人がロタウイルス胃腸炎により入院しています.入院が必要な急性下痢症の42-58%はロタウイルス胃腸炎です.急性脳症の原因疾患としては,ロタウイルス胃腸炎が38%,インフルエンザが25%で,ロタウイルス胃腸炎の方が多いという推計があります.

2004年に1価ロタワクチン(ロタリックス),2006年に5価ロタワクチン(ロタテック)が開発され,導入されました.ロタワクチンの効果は絶大です.米国におけるロタワクチンの2013年の接種率は73%で,導入前に比べロタウイルス胃腸炎患者が58-90%,1-4歳における入院や救急外来受診が80-89%減少しました.2015年時点でロタワクチンは世界77カ国で定期接種化されています.しかし,残念ながら日本では未だに定期接種になっていません.当院では,任意接種にもかかわらず,乳児の約9割がロタワクチンの接種を受けています.ロタウイルス胃腸炎は重症化しやすく,入院率がかなり高いです.また,痙攣,脳症などの神経学的合併症を起こすことがあり,死に至ることもあります.ロタワクチンは是非接種を受けてください.