ヒトの皮膚の厚さは約2mmです.皮膚表面が表皮で,その下には真皮があり,表皮と真皮を合わせて皮膚と呼びます.表皮の最表層が角質層で,角質層が剥げ落ちたものが「垢(あか)」です.真皮の下が皮下組織で,さらにその下には筋肉があります.

皮膚は,外界からの異物の侵入を防ぐ物理的バリアです.最近の研究で,皮膚は単なるバリアでなく,免疫組織として働いていることが明らかになって来ました.外界から体内に異物が侵入すると,ランゲルハンス細胞や樹状細胞などの抗原提示細胞がその異物を捕捉して「からだの外から敵がやって来たぞ!」と認識し,免疫システムが作動し始めます.表皮にはランゲルハンス細胞が,真皮には樹状細胞が豊富に存在します.ランゲルハンス細胞は,表皮全面積の25%に分布し,抗原捕捉や炎症反応によって所属リンパ節に移動します.皮膚に存在するケラチノサイトは,免疫を調節する働きがあるサイトカイン(ILー1,ILー6,TNF-α,GM-CSFなど)を産生分泌します.皮膚が免疫組織であることに着目した小児科領域でのトピックスが,「皮内投与型ワクチン」と「乳児アトピー性皮膚炎の治療」です.

現在用いられているほとんどのワクチンは皮下注射で,子宮頸ガンワクチンなど一部のワクチンは筋肉内注射です.近年開発中の皮内投与型ワクチンは,抗原の送達経路として皮膚(表皮+真皮)を用います.皮膚には抗原提示細胞が豊富にあるため効率よく免疫誘導が起こすことが可能で,抗原量が5分の1程度で済むという利点があります.新型インフルエンザの発生などで短期間に大量のワクチン液が必要になった場合には,皮内投与型ワクチンが威力を発揮します.テルモは既に皮内注射専用デバイス「イムサイス」を開発しています.針長は1.15mm,針幅は33Gです.イムサイス使用時には,シリンジ部を握って肩の三角筋部に垂直に押し当て,注入圧に負けないように親指でワクチン液を注入します.成人や高齢者における臨床試験では膨疹形成が96-98%で確認され,薬液漏れは0%でした.穿刺時の痛み,神経や血管への接触や損傷が少ないという特徴があります.局所反応として発赤,腫脹,疼痛などが出現しますが, 9-10日間で消失します.約2年後には季節性インンフルエンザワクチンをイムサイスに充填したものが発売されるようです.コスメディ製薬は,ハイドロゲルパッチを応用した皮膚に貼るタイプの経皮ワクチンを開発中です.直径7-8mmのパッチ状の膜に,長さが数百μmの極微小のスパイク状の針が多数付着しています.金属注射針が不要で,自己注射が可能です.痛みはありません.室温保存でよく,輸送や保管における冷蔵設備が不要です.経皮ワクチンの材料はヒアルロン酸のため,生体内で溶解します.20-49歳を対象に季節性インフルエンザワクチンで臨床試験が行われ,従来の皮下注射と同等の効果が証明されています.その後材料がポリグリコール酸マイクロニードル(PGA-MN)に変更され,開発が続行中です.さらに,ワクチン液を針先に局在することが技術的に可能になりました.経皮ワクチンではアジュバントが必要で,K3(CpG-ODN)が有望です.経皮ワクチンには,抗原感作能力が優れている,皮膚常在性樹状細胞サブセットの所属リンパ節への遊走を促す,免疫メモリーが十分に得られるという利点があります.

小児のアトピー性皮膚炎の多くは,生後2-4カ月頃に発症します.頬が赤くただれ,耳の付け根が切れ,体幹に皮疹が出現し,やがて肘の内側や膝の裏側がガサガサに荒れて来ます.健常な皮膚にはバリア機能があり,外界からの異物の侵入を防いでくれます.一方,アトピー性皮膚炎では天然保湿因子の減少などにより皮膚バリア機能が破綻または低下していて,体内に抗原が侵入してしまいます.アトピー性皮膚炎を放置して皮膚が荒れたままだと抗原が皮膚から侵入し,表皮のランゲルハンス細胞や真皮の樹状細胞が認識し,I型アレルギーが成立してしまいます.これを経皮感作と呼びます.生後6カ月から治療を開始しても,食物抗原による感作は防げません.生後4カ月になる前に治療を開始し,皮膚を正常に近い状態にしないといけません.食物抗原だけでなく,ハウスダスト,ダニ,ネコやイヌの皮屑(=フケ)が皮膚から侵入して経皮感作が成立すれば,気管支喘息やアレルギー性鼻炎などの原因になります.経皮感作を防ぐためには,速やかに適切な治療を行う必要があります.治療前に,アトピー性皮膚炎の病勢を鋭敏に反映する血清中のTARCを測定します.Finger-tip unit(FTU)を用いて適切な量のステロイド外用薬を塗り,見ても触れても湿疹が全くない状態にします.ステロイド外用薬を連日塗布して皮膚がきれいになったら,プロアクティブ療法に移行します.軽症例では,プロアクティブ療法をせずに保湿剤のみに移行し,悪化時にステロイド外用薬を使用します.中途半端な治療ではアトピー性皮膚炎は治らず,荒れた肌では経皮感作を回避できません.皮膚がつるつる,すべすべな状態を保たなければいけません.乳児に湿疹病変がある場合には,当院にご相談ください.適切に治療します.