腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は,ベロ毒素(Vero toxin:VT)を産生またはVT遺伝子を保有する病原性大腸菌により下痢,血便,腹痛,発熱を主症状とする疾患です.溶血性尿毒症症候群(HUS)を併発した場合には,痙攣などの神経症状を起こし,腎不全に至り,死亡することがあります.

日本国内における感染症サーベイランスシステムによれば,2016年にはEHEC感染症患者が2246例,患者発生時の積極的疫学調査や調理従事者等の定期検便などで発見される無症状病原体保有者が1399例,合計3645例が報告されました.例年同様,夏に多くの患者発生がありました.都道府県別には,無症状を含むEHEC感染者数は,東京都,神奈川県,大阪府,福岡県,千葉県,埼玉県の上位6都府県で全体の41%を占めました.人口10万人対では,佐賀県(10.2)が最多で,青森県(7.4),長崎県(6.1)が次いでいました.0-4歳では,保育所などで集団発生があった佐賀県と青森県で多く発生していました.HUSを合併した症例は96例(有症者の4.3%)で,そのうち61例からEHECが分離されました.血清型の内訳はO157が51例で,毒素型はVT2陽性(VT2単独陽性およびVT1&2陽性)が46例を占めました.有症者のうちHUS発症者の割合が最も高かったのは5-9歳の低年齢層で8.4%でした.死亡例が9例ありました.

地方衛生研究所から2016年に報告されたEHECの菌数は1669でした.血清型は,O157が53%,O26が32%,O103が3.6%でした.毒素型は,O157ではVT1&2陽性が最も多く,O157の55%を占めました.O26,O103ではVT1単独陽性が最も多く,ぞれぞれの血清群で98%,97%を占めました.0157が検出された877例における主症状は,下痢が54%,腹痛が52%,血便が42%,発熱が22%でした.

2016年に,地方衛生研究所から報告されたEHEC感染症の集団発生事例(菌陽性者が10名以上)は17件でした.発生月は6月が1件,7月が5件,8月が8件,9月が1件,10月が1件,12月が1件でした.血清型(毒素型)は,O157(VT1&2陽性)が2件,O157(VT2単独陽性)が5件,026(VT1単独陽性)が9件, 0145(VT2単独陽性)が1件でした.推定伝播経路は,食品が4件,人→人が10件,不明が3件でした.発生施設は,保育所が12件,飲食店が2件,家庭・飲食店が1件,高齢者施設が1件,宿舎・寮が1件でした.一方,食品衛生法に基づいて都道府県等から報告されたEHECによる食中毒は14件で,患者数は252例でした.これらの集団発生事例で注目すべきものは,7月に滋賀県の焼肉店で発生したO157による食中毒事例(患者数39例),7-8月に沖縄県で旅行者を中心としたサトウキビジュースによるO157の集団感染事例(患者数28例),8月に千葉県と東京都の高齢者施設で発生したきゅうりのゆかり和えによるO157による食中毒事例(患者数84例,死者10例),10月に静岡県内で製造された冷凍メンチカツによるO157による食中毒事例(患者数67例)などです.

牛肉の生食による食中毒の発生を受けて,厚生労働省は2011年10月に生食用食肉の規格基準の見直しを,2012年7月に牛の肝臓の生食用販売の禁止を行いました.2012年10月には,漬物による0157の集団発生を受けて,漬物の衛生規範が改正されました.2016年には飲食店等での食中毒事例が多く発生しています.食中毒予防の基本を守り,生肉や加熱不十分な肉は食べないなどの注意が必要です.また,EHECは100個程度の少量の菌数でも感染が成立するため,人から人,人から食材・食品への経路で感染が拡大しやすいです.2016年も保育所における集団発生が多く,普段からの園児・職員の手洗いの励行,夏季の簡易プールなどの衛生管理に注意を払う必要があります.さらに,家族内や福祉施設等で患者が発生した場合には, 2次感染予防の徹底や検査が必要になります(病原微生物検出情報,Vol.38,No.5より引用抜粋).

当院では,2011年8月に,O157(VT1&2陽性)と026(VT1単独陽性)によるEHEC患者が1例ずつ発生しました.2015年7月には,下痢,血便の患者からO157(VT1&2陽性)が検出され,EHEC患者であることが確認されました.いずれもHUSは発症せず,治癒しました.家族内感染などの2次感染はありませんでした.感染経路は不明でした.

当院では,便培養を積極的に行い,EHECの発見に努めています.下痢が続き血便がある場合には,早目に受診してください.