患者さんが持参するお薬手帳をめくってみると,風邪処方の咳止めとして中枢性鎮咳薬(麻薬性:リン酸コデイン,非麻薬性:アスベリン,メジコンなど)が処方されています.さて,このような処方は医学的に妥当でしょうか?

アメリカ食品医薬品局(FDA)は,2008年に,「2歳未満の小児には市販の風邪薬を飲ませないように.」という勧告を出しています.その理由として,「中枢性鎮咳薬と鎮静性抗ヒスタミン薬が含まれているから.」と述べています
http://www.fda.gov/cder/drug/advisory/cough_cold_2008.htm 1/17/2008).

咳は,元来,気道内の痰や異物を気道から喀出するための生体防御反応です.咳チックなどの心因性の場合を除けば,気道の咳受容体が刺激され,この刺激が咳中枢へ伝わり,痰や異物を体外に出そうとして「咳」が発生します.無理矢理咳を止めてしまえば,痰詰まりが起こり,異物の除去が行われずに呼吸困難に陥ります.重篤な場合には,窒息死してしまいます.

小児は成人に比べ,気道が狭いため僅かな分泌物でゼーゼー・ヒューヒューなどの狭窄症状を起こしやすい,気道軟膏の発達が十分でないため気道がつぶれやすく狭窄症状が出やすい,咳が弱いために喀痰の排出がしづらい,新生児や乳児では口呼吸が確立していないため鼻腔に分泌物が貯まると呼吸困難になりやすい,呼吸中枢が未熟なため無呼吸を起こしやすい,呼吸予備能が低いために軽微な要因でも呼吸困難に陥りやすい,胸郭が柔らかく肋骨が平行なために十分な換気量を確保しにくい,呼吸筋とくに横隔膜の働きが未発達であるなどの特徴があります.このため,感染が原因で呼吸困難や呼吸不全になりやすく,慎重な観察と十分な治療が必要になります.小児は単に成人を小さくしたものではなく,機能的な「弱さ」を持っています.

「咳嗽に関するガイドライン第2版(日本呼吸器学会,2012年発行)」には,「中枢性鎮咳薬の使用はできる限り控える.」と明記され,中枢性鎮咳薬は推奨グレートD(=行わないよう勧められる,無効性あるいは害を示す根拠がある)に分類されています.「小児の咳嗽診療ガイドライン(日本小児呼吸器学会,2014年発行)」にも,同様に記載されています.中枢性鎮咳薬の小児への処方は,不適当です.

2017年6月22日,厚生労働省薬事・食品衛生審議会医薬品等安全対策部会安全対策調査会において,咳止めに使用される成分の「コデイン」を含有する医薬品について,12歳未満の小児への処方を段階的に制限する方針を決めました.2018年度末までは,経過措置期間として小児への使用を避ける注意喚起を行います.2019年度に添付文書の改訂を指示し,全コデイン含有製剤の投与を禁忌とする方針です.2017年4月20日に米国食品医薬品局(FDA)が12歳未満の小児では呼吸抑制が強く,死に至る危険があるとして,禁忌とする旨を公表していました.日本では,現時点ではコデイン含有製剤は「慎重投与」で,小児への処方を禁じていません.このため,処方薬のほかに,風邪薬など約600種類の市販薬に含まれています.日本では,2004年4月-2017年5月に,コデイン含有製剤による呼吸不全や意識障害などの重篤な副作用が4例報告されています.いずれも10歳未満で,死亡例はありませんでした.

中枢性鎮咳薬を内服すれば咳は止まりますが,痰が出なくなってしまうので気管支炎,肺炎などが治りにくくなってしまいます.コデイン含有製剤では呼吸困難が起きることが報告されているので,服用してはいけません.

当院では10数年以上,中枢性鎮咳薬を処方していません.「咳が出るから,止めればよい.」というのは間違っています.中枢性鎮咳薬は服用しないでください.