「乳児血管腫」は皮膚の表面や内部にできる「赤あざ」の1種で,「苺状血管腫」とも呼ばれます.未熟な毛細血管が増殖した良性の腫瘍です.日本人の小児における発症率は0.8-1.7%で,早産,低出生体重児,女児に多くみられます.顔にできることが多いですが,血管があるところならどこでも発生します.皮膚表面だけでなく,内臓にできることもあります.形や大きさは様々で,1カ所だけの場合もあれば,2カ所以上にできるものもあります.小さいままの場合もあれば,次第に大きくなり広範囲に及ぶものもあります.生後1-4週に出現し,大きくなる場合には1年以内に急速に増大します(=増殖期).赤みは,90%以上の症例で5-7歳までに数年かけて少しずつ消えていきます(退縮期).多くの場合,瘢痕として残ります.

乳児血管腫は,(1)局面型,(2)腫瘤型,(3)皮下型に分類されます.(1)局面型は病変が主に真皮上皮に存在し,皮膚表面からわずかに隆起します.野苺状の外観を示すことが多く,境界明瞭な鮮紅色斑です.熱感はわずかで,拍動は通常触知しません.痒みのために,掻爬することがあります.退縮時期は他の2型に比べ早期で,整容的な問題は比較的少ないです.(2)腫瘤型は病変が真皮から皮下脂肪組織まで存在し,皮膚表面から早期に隆起し,境界明瞭な赤色斑になります.弾性でやや硬く,境界が比較的明瞭な一塊の腫瘤として触知されます.腫瘤の大きさには日内変動があり,多くは熱感,拍動を触知します.擦過により容易に皮膚が潰瘍化し,感染や出血がみられることがあります.退縮しても赤色斑部がしわ状に萎縮した皮膚として残存することが多く,整容的な問題が起こりやすいです.(3)皮下型は病変が主に皮下脂肪組織に存在し,皮膚表面に赤色斑はなく熱感はありません.弾性でやや硬く,境界が比較的明瞭な腫瘤として触知されます.退縮後に表面皮膚の整容的な問題がなくても,皮下に腫脹が残ることがあります.

乳児血管腫の大きさ,形,部位などにより,治療法が選択されます.小さくて瘢痕が残っても気にならない部位のものは,経過観察のみで自然退縮を待ちます.気道や食道を圧迫して呼吸や食事(哺乳)の妨げになる,眼に近い場所などで感覚器に影響を及ぼす,血管腫が急激に大きくなる,出血しやすい,ただれやすい,瘢痕として残りやすい場合などには治療が行われます.従来は,ステロイド内服・局所注射やレーザー照射療法が行われて来ました.

プロプラノロールには血圧を下げ心拍数を減らす作用があり,1960年代から高血圧や不整脈などの治療薬として広く使われています.ある日,フランスの医師が心臓病の治療目的にプロプラノロールという薬剤を投与したところ,乳児血管腫が短期間で小さくなり消えていくことに気付きました.これをきっかけに,乳児血管腫に対するプロプラノロールの臨床試験が行われ,2014年から欧米などで使用されるようになりました.日本では,2016年9月に「ヘマンジオルシロップ」という名前で発売が開始され,乳児血管腫の治療薬として使用されています.

ヘマンジオルシロップの投与量は,プロプラノロールとして1日1-3mg/kgを2回に分け,最低9時間以上あけて,経口投与します.投与は1日1mg/kgから開始し,入院管理下では2日以上,外来管理下では7日程度の間隔をあけて1mg/kgずつ増量し,1日3mg/kgで維持します.低血糖を起こすことがあるので,空腹時の投与を避け,授乳中,食事中または直後に投与します.食事をしていない,あるいは吐いている場合には服用してはいけません.

ヘマンジオルシロップの副作用としては,低血糖,心拍数の低下及び低血圧,呼吸困難に特に注意が必要です.低血糖が起こると,顔面蒼白,発汗,震え,脈が速くなる,寝起きが悪い,反応が悪い,起こそうとしても起きない,体温低下,痙攣などが起きます.心拍数の低下及び低血圧が起こると,脱力,手足が冷たい,顔色や手足の色が悪い,意識消失などが起きます.ヘマンジオルシロップには気道を収縮する作用があるため,咳き込む,呼吸が速くなる,息苦しそうにする,喘鳴(呼吸の際にゼーゼー,ヒューヒューという音がする),顔色が青白くなるなどの症状に注意が必要です.喘息を悪化させ,呼吸困難を起こすおそれがあります.喘息や気管支炎がある場合には服用できません.

ヘマンジオルシロップは投与開始24週間を目安に有効性を評価し,治療継続の必要性を検討します.国内の臨床試験では,32例中21例は再治療の必要がなく,11例は再治療が必要でした.10例は他のプロプラノロール製剤による再治療が,1例は色素レーザー治療が必要でした.増殖期が終わる1歳から1歳半頃まで投与が必要な場合もあります.生後9カ月以内の中止例,深部病変例,女児例では再発が多いとされています.

乳児血管腫が出現した場合には,当院にご相談ください.