2017年8月下旬,当院周辺ではRSウイルス(Respiratory Syncytial Virus)感染症が流行しています.神奈川県では6月から流行が始まり,7月には過去10年で最多の患者数を記録しているそうです.新潟県内でも8月上旬から患者発生が報告されています.RSウイルス感染症は,従来は11月から翌年の5月頃まで流行し,ピークは1月から2月でした.しかし,ここ数年はこの流行パターンが崩れ,2013年頃からは8-9月から流行が始まっています.

RSウイルスは,呼吸器感染症を引き起こす代表的な病原ウイルスのひとつです.すべての年齢層で感染が起こり,生涯に何度でも感染を繰り返します.RSウイルスは喉から容易に気管支や肺へ感染が波及します.小児とくに乳児や若年幼児,あるいは心臓や肺に基礎疾患を持つ小児や成人では重症化しやすく,注意が必要です.

RSウイルスは抗原性の違いによりA株とB株に2大別され,A株とB株が交互に流行する傾向を示します.RSウイルスは頻繁に遺伝子変異を起こします.このため母親由来の移行抗体は感染防御に不十分で,生後半年以内の乳児でも罹患してしまいます.毎年流行を繰り返し生涯に何度でも罹患してしまうのも,同じ理由によります.

RSウイルス感染症の潜伏期間は2-8日と幅がありますが,多くは4-6日です.主要な感染経路は,接触感染です.RSウイルスを含む鼻汁や唾液に汚染された器物に触れることでウイルスが手に付着し,その手で目や鼻をこすることで感染が成立します.ウイルスは鼻や喉の粘膜で増殖し,やがて気管支や肺に感染が拡大します.生後2歳までに,ほとんどの乳幼児が感染します.多くは家族内感染で,兄姉からの感染が多いです.日常生活におけるリスク要因は,兄弟姉妹がいる,保育施設を利用している,家族に喫煙者がいる,男児である,RSウイルス流行期に出生している,母乳保育期間が短い,などです.

RSウイルスは,上気道炎,喉頭炎,気管支炎,細気管支炎,肺炎,無気肺などを起こします.初感染乳幼児の7割は,上気道症状のみで数日のうちに軽快します.一方,残りの3割は,咳や鼻汁などの初期症状から2-3日後に咳がひどくなり,細気管支炎や肺炎などの下気道炎を起こします.

RSウイルスによる下気道炎の大多数は,3歳未満の乳幼児に起こります.感染初期には38℃以上の発熱を呈し,2-7日間続きます.気管支から細気管支に炎症が拡大すると,胸がゼイゼイし,激しい喘鳴や陥没呼吸が起ります.呼吸困難に陥り,人工呼吸管理を要する重症例もみられます.喘鳴が強い場合,呼吸器症状が急激に悪化する場合,基礎疾患を持つ場合には,入院が必要になります.RSウイルス感染症が重症化しやすいリスク要因としては,早産児もしくは在胎期間が35週以下,気管支肺異形成症,先天性心疾患,免疫不全,染色体異常をなどが挙げられます.

RSウイルスの合併症としては,中耳炎がよく知られており,とくに乳児で多く認められます.

RSウイルスを直接治療する薬剤はありません.対症療法により軽快,治癒を待ちます.喘鳴がある場合には,気管支喘息に準じて治療を行います.しかし,RSウイルス感染症による喘鳴は,抗ロイコトリエン薬やステロイド剤が効きづらく,治療に難渋することがしばしばです.

RSウイルスは,マイコプラズマ,インフルエンザウイルス,ヒトメタニューモウイルスなどとともに,気管支喘息発作を誘発する因子として重要です.また,乳幼児期にRSウイルス感染により喘鳴を起こした場合には,将来的に気管支喘息に移行しやすいことが知られています.

今後,RSウイルス感染症の流行が拡大することが予測されます.発熱,激しい咳込み,喘鳴がある場合には,当院に早目に受診してください.検査を行い,適切に治療します.