2017年9月6日付けの新聞各紙で,流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)による難聴について以下の通り報じられました.

日本耳鼻咽喉科学会が,2017年2月から全国の耳鼻科約8700施設を対象に調査を行い,約5600施設から回答を得ました.2015年からの2年間でおたふくかぜによる難聴が336人発生していました.約8割の261人は高度の難聴でした.両耳ともに難聴になったものは14人で,そのうちの11人は日常生活に支障を来し,補聴器の使用または人工内耳の埋め込みが行われました.年齢階層別には,10歳未満が151人,10歳代が69人で,未成年者が65%を占めていました.おたふくかぜによる難聴の発生はよく知られていますが,全国的な調査でその実態が明らかになったのは初めてです.

日本における2004-2006年の別の調査では,おたふくかぜ罹患後7400人を対象に「指こすり」による聴覚検査が行われ7人の難聴が発見されています.おたふくかぜ患者の1000人に1人は難聴になってしまいます.難聴は気付かれない場合もあり,日本では1年間に500-2000人のおたふくかぜによる難聴が発生していると推測されています.

おたふくかぜによる難聴は神経合併症の1つです.内耳有毛細胞が障害を受け,感音性難聴になります.耳下腺腫脹消失後1カ月以内に,難聴や前庭症状を呈します.予後は不良で,有効な治療法はありません.

おたふくかぜによる難聴の多くは聾といわれる極めて高度の難聴ですが,片側性が多いために学童期までは日常生活に支障がなく,見逃されてしまうことがあります.しかし,思春期以後になると,ちょっとしたことが聞き取れず,周囲とのコミュニケーションに障害をきたすようになります.成人期には聴覚障害を強く自覚するようになり,めまいや耳鳴りなどの前庭症状を伴い,社会生活にも支障をきたすようになります.両側性の難聴が起こることがあり,おたふくかぜによる難聴は決して軽視することができません.

おたふくかぜでは,耳下腺腫脹7日前から9日後までムンプスウイルスが分離されますが,感染力が強いのは腫脹1-2日前から5日後までです.おたふくかぜには,感染しても症状が出現しない不顕性感染が約30%あります.このため,発症者の隔離のみで流行を阻止することは不可能で,ワクチンのみが唯一の効果的な予防法です.流行抑制のために必要な集団免疫率は85-90%です.日本におけるおたふくかぜのワクチン接種率は約30%のため,流行は抑制できていません.

2016年2月初旬より当院周辺ではおたふくかぜの流行が始まり,2017年9月現在も患者発生が続いています.おたふくかぜの流行はしばらく続きそうです.おたふくかぜワクチンは,通常,1回目は1歳を過ぎたら直ぐに,2回目は就学前に,いずれも麻疹風疹ワクチンと同時に接種を受けます.1回接種では抗体が減衰してしまいます.必ず2回接種を受けてください.おたふくかぜに罹患したことのない方は,年齢を問わず必ず2回のワクチンの接種を受けてください.学童期以後も接種を受けることができます.