梅毒は細菌感染症であり,梅毒トレポネーマが病原体です.梅毒トレポネーマは直径が0.1-0.2μm,長さ6-20μmのらせん状で,活発な運動性を有します.染色法や暗視野顕微鏡で肉眼的に観察できますが,試験内培養ができないために病原性の仕組みはほとんど解明されていません.

日本では1948年に性病予防法が制定され,梅毒は全数報告が求められる疾病になりました.当時は年間22万人の患者発生がありました.その後減少し,1960年代には年間6000-12000人,2000年代には年間700ー800人程度に減少しました.しかし,2010年以後は増加に転じ,2014年には1671人の患者発生が確認されています.

梅毒は,梅毒トレポネーマが主に性的接触により,粘膜や皮膚の小さな傷から侵入して感染します.また,感染した妊婦の胎盤を通じて胎児に感染した場合は,流産,死産,先天梅毒が生じることがあります.なお,母乳による母子感染は成立しないと考えられています.

梅毒トレポネーマが感染すると,3-6週間程度の潜伏期の後に,感染箇所に初期硬結や硬性下疳が出現します.これを,I期顕症梅毒と呼びます.その後,数週間から数カ月を経過すると梅毒トレポネーマが血行性に全身へ移行し,皮膚や粘膜に発疹が出現します.これをII期顕症梅毒と呼びます.I期顕症梅毒とII期顕症梅毒を早期顕症梅毒と総称します.感染後数年から数十年経過すると,ゴム腫,心血管症状,神経症状などが出現する場合があり,これを晩期顕症梅毒と呼びます.早期顕症梅毒と晩期顕症梅毒の間に症状が消える無症候期があり,診断,治療の遅れにつながることがあります.

先天梅毒では,生後間もなく皮膚病変,肝脾腫,骨軟骨炎などが認められ,これを早期先天梅毒と呼びます.乳幼児期は症状を呈さず,学童期以降にハッチンソン3徴候(実質性角膜炎,内耳性難聴,ハッチンソン歯)を呈するものを晩期先天梅毒と呼びます.

梅毒の起因菌である梅毒トレポネーマは培養ができません.患部の梅毒トレポネーマを顕微鏡で直接観察するか,患者血清中に菌体抗原やカルジオリピン抗体を検出することで診断します.

治療にはペニシリン系抗菌薬が有効であり,耐性菌は報告されていません.

不特定多数の人との性的接触は梅毒のリスク因子であり,コンドームの非使用はリスクを高めます.梅毒の陰部潰瘍はHIVなどの他の性感染症の感染リスクを高めます.また,HIV感染症に梅毒が合併すると相互に影響を及ぼし,重症化することがあります.胎盤が形成される妊娠16週以降に胎児に梅毒トレポネーマが感染すると,先天梅毒の発症リスクが高くなります.先天梅毒の予防には,妊娠早期の梅毒抗体検査,感染が認められた場合の早期治療,妊娠中の梅毒感染の防止を図ることが重要です.

近年,梅毒患者が国内外で増加しています.梅毒は通常の性行為だけでなくオーラルセックスやアナールセックスでも感染すること,終生免疫を得られず再感染すること,早期に治療をしないと病態が進行してしまうことなどを,特に性行動が活発な若年層は知る必要があります.