インフルエンザウイルスは,主に,喉などの気道粘膜を経由してヒトの体内に侵入します.インフルエンザウイルスは自分だけでは増殖することができません.インフルエンザウイルスはヒトの細胞内に入り込み,RNAを放出して細胞の核に送り込み,増殖を開始します.インフルエンザウイルスに乗っ取られた細胞は,新しいウイルスの部品となるRNAや蛋白質を大量に合成します.新しく作られたインフルエンザウイルスは,細胞の膜表面に出芽をします.最終的に,インフルエンザウイルスはノイラミニダーゼという酵素によって細胞から遊離し放出されます.新しく作られたインフルエンザウイルスは,他の細胞に侵入して,増殖を繰り返します.

現在,インフルエンザの治療には,内服薬のタミフル,吸入薬のリレンザ,イナビル,点滴薬のラピアクタが用いられています.これらの薬剤は投与経路や回数などに相違はありますが,全てノイラミニダーゼ阻害薬です.ノイラミニダーゼという酵素の働きを阻害して,細胞内で増殖したインフルエンザウイルスの細胞からの遊離,放出を抑えることにより増殖を防ぎます.ノイラミニダーゼ阻害薬には,細胞内でのウイルス増殖を抑制する作用はありません.

2017年10月25日,塩野義製薬株式会社は,新しいタイプのインフルエンザ治療薬「キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬(Cap-Dependent Endonuclease Inhibitor)S-033188」について,製造販売承認申請を行いました.

S-033188は,インフルエンザウイルスが細胞内へ侵入した後,ウイルス増殖に必須なRNA複製過程の最初の反応であるmRNA合成の開始を特異的に阻害します.インフルエンザウイルスの増殖に必要な蛋白質の合成ができなくなり,ウイルス粒子の形成ができずに,結果として細胞内でのウイルス増殖を阻害します.ノイラミニダーゼ阻害薬とは作用機序が異なります.

S-033188は,罹病期間の短縮効果などはノイラミニダーゼ阻害薬と同じです.一方,S-033188はウイルス消失効果に優れ,投与後1-2日以内にのどからウイルスが消えてしまいます.このため,家庭内や学校,職場などでのウイルス伝播を抑制し,インフルエンザの感染拡大を抑える効果が期待できます.また,薬剤との関係性が疑われる有害事象の発現率がタミフルと比較して有意に低く,ノイラミニダーゼ阻害薬と同等以上の安全性を示します.

S-033188は,初回1回1錠の単回投与です.利便性が高く,確実な服薬が期待できます.また,季節性のA型およびB型インフルエンザウイルスだけでなく,世界的流行が懸念されているトリインフルエンザウイルスA/H5N1およびA/H7N9にも有効です.さらに,ノイラミニダーゼ阻害薬に耐性を有するウイルス株に対しても増殖抑制効果が確認されています.

ノイラミニダーゼ阻害薬は発熱後48時間以内に服薬を開始しないと効果がありません.欧米諸国では医療制度の違いにより,日本のように発熱後48時間以内に受診することが少なく,既にノイラミニダーゼ阻害薬が効かない場合が多いようです.このため,肺炎,中耳炎などの合併症が日本よりは高率に起きてしまっています.今回開発されたS-033188は,発熱後48時間以上経過した患者にも有効かもしれません.

ノイラミニダーゼ阻害薬には60%以上の重症化防止効果がありますが,重症化してしまったインフルエンザには無効です.S-033188は,ノイラミニダーゼ阻害薬との併用により,より高い臨床効果を発揮する可能性があります.

早期の販売開始が待たれます.