人体を構成する元素のうち生体維持に欠かせないものを必須元素と呼びます.これらのうち,比較的生体含有量が多い酸素(O),炭素(C),水素(H),窒素(N),カルシウム(Ca),リン(P),硫黄(S),カリウム(K),ナトリウム(Na),塩素(Cl),マグネシウム(Mg)の9元素を,必須常量元素と呼びます.これら9元素よりも生体含有量が少ないものを微量元素と呼び,特に鉄(Fe),亜鉛(Zn),銅(Cu),ヨウ素(I),マンガン(Mg),セレン(Se),モリブデン(Mo),コバルト(Co),クロム(Cr)の9元素(あるいはケイ素(Si),フッ素(F),ニッケル(Ni)を加えた12元素)を必須微量元素と呼ぶことが多いです.微量元素の生体含有量は体重の0.01%未満,1日の必要量は100mg以下で極僅かですが,鉄,亜鉛,銅,ヨウ素,セレンの欠乏は臨床上問題になることが多く注意が必要です.今回は,亜鉛欠乏症について概説します.

亜鉛は,生体内の300種類以上の酵素の構成成分です.小児期の亜鉛欠乏症の原因としては,摂取不足(低亜鉛母乳,神経性食欲不振などによる栄養障害など),過剰喪失(難治性下痢症,腎疾患,利尿剤使用など),吸収障害(腸性肢端性皮膚炎,各種薬剤など),需要増大(妊婦,授乳婦,早産児),その他(ダウン症など)が挙げられます.

亜鉛は味覚,嗅覚を維持するために不可欠です.亜鉛欠乏症では,味や臭いがわからなくなります.このほか,身長の伸びが悪い,体重増加不良などの成長障害,傷が治りにくい,口周囲・肛門周囲・眼周囲の皮膚炎,毛髪が抜けやすい,下痢,免疫能低下など多彩な症状を呈します.これらの症状の出現機序は不明ですが,亜鉛欠乏により各種酵素の働きが悪くなり,代謝回転の速い細胞や組織が最初に影響を受け,皮膚,腸管粘膜,免疫系などが早期に障害されると考えられています.

上記のような症状がある場合には,血液検査が必要です.血清中の亜鉛濃度が,80-130μg/dlは正常,60-79μg/dlは境界領域(低下症),59μg/dl以下は欠乏症です.

亜鉛を多く含む食品は,カキ,サザエ,イカ,タコ,カズノコ,煮干し,ビジキ,のり,きなこ,ごま,アーモンド,ナッツ,牛肉,豚肉,レバー,玄米,そば,麩,ココア,抹茶,煎茶などです.

亜鉛欠乏症の場合には,亜鉛の補充が必要になります.以前は,保険適応のある薬剤はなく,胃潰瘍の治療薬であるプロナックD錠75(亜鉛含有量17mg/錠)が適応外処方されていました.2017年3月に,銅の代謝疾患であるウイルソン病の治療薬のノベルジン錠(25mg,50mg)が低亜鉛血症に対して保険適応になりました.投与量は体重30kg未満の小児では1回25mgを1日1回,30kg以上の小児では1回25mgを1日1回ないし2回,最大投与量は30kg未満の小児では1回25mgを1日3回,30kg以上の小児では1回50mgを1日3回です.

亜鉛剤は,同時投与により他の薬剤の吸収を阻害する働きがあります.リウマチ薬のメタルカプターゼや甲状腺薬のチラージンと併用する場合には,服薬時間を2-3時間以上あけるようにしましょう.

薬剤のなかには血中の亜鉛とキレート化合物を形成し,尿中への亜鉛排泄を促進し,血清中の亜鉛濃度を低下させるものがあります.降圧剤のカプトリル,利尿剤のラシックス,高脂血症治療薬のメバロチン,抗パーキンソン剤のドパストン,抗てんかん薬のテグレトール,解熱鎮痛消炎剤のボルタレン,消化性潰瘍剤のタケプロンなどを服薬している場合には,亜鉛欠乏症に注意が必要です.

味がしない,臭いがしないなど亜鉛欠乏症を疑わせるような症状がある場合には,当院にご相談ください.適切に診断,治療します.