タクロリムス外用薬(商品名:プロトピック軟膏)は免疫抑制剤のひとつです.プロトピック軟膏には,成人用0.1%(16歳以上)と小児用0.03%(2-16歳未満)の2つの製剤があります.2歳未満は使用できません.プロトピック軟膏の効力は,成人用0.1 %はストロングクラス(5段階の強い方から3番目)のステロイド外用薬とほぼ同等です.小児用0.03%は成人用よりやや弱いです.

プロトピック軟膏には,T細胞におけるサイトカイン産生を抑制する,肥満細胞からの化学伝達物質の放出を抑制する,好酸球の働きを抑える,ランゲルハンス細胞などの抗原提示細胞のT細胞への過剰な抗原提示能を低下させる,などの働きがあります.プロトピック軟膏は,ステロイド外用薬とは全く異なった機序で皮膚の炎症を抑制します.

ステロイド外用薬の分子量は450-550で小さいために,病変部位だけでなく健常皮膚でも吸収されてしまいます.一方,プロトピック軟膏の分子量は822と大きいため,バリア機能の破壊された病変部位では吸収されますが,正常の角層は通過しません.したがって,皮膚状態が回復すれば不要になったプロトピック軟膏は自動的に吸収されなくなります.プロトピック軟膏には,ステロイド外用薬のような長期間の外用による皮膚萎縮や毛細血管拡張などの副作用はありません.

皮膚のかゆみは,サブスタンスPなどの化学伝達物質が神経末端に作用して起こります.アトピー性皮膚炎の皮疹部では,プロトピック軟膏はステロイド外用薬よりもサブスタンスPを低下させる作用が大きく且つ早期に発現するため,かゆみを抑制する作用が強いです.経表皮水分蒸散量(TEWL)の上昇は,皮膚バリア機能の悪化を意味します.プロトピック軟膏はステロイド外用薬よりもTEWLを減らす作用が強く,皮膚バリア機能を改善してくれます.プロトピック軟膏はステロイド外用薬よりも,皮疹の非活動期だけでなく活動期における皮膚バリア機能改善効果,脂質ラメラ構造に対する層構造改善効果が高いです.プロトピック軟膏は顔面とくに眼周囲に好んで用いられてきましたが,全身皮膚に有効です.小児における比較試験では,成人用0.1%と小児用0.03%には有効性,効果発現時間に大きな差はありません.プロトピック軟膏には,軽症だけでなく中等症,重症のアトピー性皮膚炎においてQOL改善効果があります.

プロトピック軟膏を塗布すると灼熱感(ヒリヒリする)が約20%の症例に出現します.塗り続けると知覚神経を刺激する物質が次第に枯渇するので,多くの場合1週間程度で灼熱感が消失して行きます.皮膚炎が強い場合にいきなりプロトピック軟膏を使用すると灼熱感が出現しやすいので,このような場合にはまず適切なランクのステロイド外用薬を1日2回,1-2週間使用して皮疹を改善します.その後,朝にステロイド外用薬,夜にプロトピック軟膏を1-2週間使用します.次に,プロトピック軟膏を1日2回,1-2週間使用します.最終的には,プロトピック軟膏を1週間に2-3日塗布するプロアクティブ療法に移行します.

プロトピック軟膏の灼熱感への対応策としては,保湿剤,ステロイド外用薬,内服抗ヒスタミン薬の併用,ステロイド外用薬で十分に消炎してからプロトピック軟膏を開始する,少量を狭い範囲に塗布してから次第に量を増やして塗布面積を広げて行く,入浴や日光を浴びると皮膚温が上がって灼熱感が強くなるので皮膚を十分に冷ましてからプロトピック軟膏を塗布する,プロトピック軟膏を塗布した部分を冷やす,などが挙げられます.

プロトピック軟膏は,粘膜,外陰部,びらん・潰瘍面には使用できません.また,単純疱疹,伝染性軟属腫(水イボ),疣贅(イボ),伝染性膿痂疹(とびひ)など,皮膚感染症がある場合には使用できません.

プロトピック軟膏はチューブの口径が小さいため,2FTU=0.5g(成人の両掌の面積に塗る量)です.保湿剤やステロイド外用薬の2倍程度長めに指先に出してください.

プロトピック軟膏をマウスに大量に塗布した実験では血中濃度が高くなり,悪性リンパ腫の発生リスクが高くなることが報告されています.ヒトに対する通常の使用量では,このような高濃度にはなりません.米国における大規模臨床研究ではプロトピック軟膏と悪性リンパ腫の発生には因果関係はなく,安全であることが証明されています.

当院では,2歳以上のアトピー性皮膚炎に対しては積極的にプロトピック軟膏を使用しています.プロトピック軟膏は安全で,とくに寛解維持期の長期使用に適しています.アトピー性皮膚炎でお困りの方は当院にご相談ください.