急性虫垂炎は,大腸の最初の部分である盲腸の先についている虫垂が化膿する病気です.俗に「もうちょう」と呼ばれ,誰でもが知っている病気です.急にお腹を痛がる病気を「急性腹症」と総称しますが,そのなかでも急性虫垂炎は頻度が高く注意が必要です.日本における年間虫垂切除数は約6万人です.人口1万人に対する年平均虫垂切除数は,5歳未満では男女とも0.6人,5-9歳では男児6.9人,女児4.9人,10-14歳では男児13.2人,女児8.5人です.年長児,男児に多い傾向があります.

急性虫垂炎の典型例は発熱,右下腹部痛を示しますが,このような症状を初めから全例が示すわけではありません.急性虫垂炎の始まりでは,虫垂の根元に便が詰まって虫垂の内圧が上がります.この時期には,臍(へそ)や鳩尾(みぞおち)のあたりがまず痛くなります.痛みを訴えることができない幼小児では,機嫌が悪くなり,食欲が落ちます.食べ物や胃液を吐くこともあります.虫垂が化膿してくると,痛みは次第に右下腹部に移動して行きます.この時期には発熱も出現します.年長児では右下腹部の痛みを訴えてくれますが,幼小児では元気がない,機嫌が悪い,ぐずつくなどで,多くははっきりした症状を示してくれません.虫垂の化膿が進むと破れて(穿孔して)しまって汎発性腹膜炎に至り,お腹が張って,軽く触れただけで激痛を訴えます.背中を丸めて脚を縮め横向きになって寝ることが多くなり,前かがみで歩くようになります.

小児虫垂炎の穿孔率は15.9-34.8%ですが,幼児に限った場合には26.7-76.5%と報告されています.幼児の穿孔率は,学童の約2倍です.急性虫垂炎になりやすいのは年長児ですが,穿孔しやすいのは幼小児です.幼小児では症状がはっきりしないために診断が難しく,穿孔率が高いので特に注意が必要です.

急性虫垂炎では穿孔により汎発性腹膜炎が起こる場合があるため,以前は疑診例に対する積極的な手術が肯定されていました.近年,軽症例では抗菌薬投与のみで虫垂切除を行いません.汎発性腹膜炎を起こして緊急手術が必要な症例は稀です.また,初期に抗菌薬投与を行い炎症が沈静化した後に虫垂切除を行う「待機的手術」が行われるようになって来ました.待機的手術には,炎症を治めてから手術をするので創感染や術後腹腔内膿瘍などの合併症が減る,予定手術のため十分な準備ができる,腹腔鏡手術を選択できるため創が小さくて済む,などの利点があります.一方で,待機中に虫垂炎が再燃することがある,癒着などによる腹痛のために前倒しで手術を行わざるを得ない場合がある,2回の入院が必要になるなどの欠点があります.

医療技術の進歩により急性虫垂炎の取り扱いに変化が生じ,救急医療の現場における混乱を回避するために,2017年に「小児急性虫垂炎診療ガイドライン」が発行されました.急性虫垂炎の症状は多彩で,小児では症状を的確に把握することが難しく,症状は時間とともに変化して行きます.ガイドラインには診断を標準化する試みとして,スコアリングが記載されています.

急性虫垂炎のスコアリングには,全年齢を対象とした「Alvarado Score」と小児を対象とした「Pediatric Appendicitis Score(PAS)」があります.PASでは,右下腹部に移動する痛み:1点,右下腹部痛:2点,咳・跳躍・打診による叩打痛:2点,嘔気・嘔吐:1点,食欲不振:1点,発熱(38℃以上):1点,白血球数増加(10000/mm3以上):1点,左方移動(好中球7500/mm3以上):1点というスコアになっています.合計スコアが,3点以下では帰宅が可能で翌日再評価,4-6点では2次入院施設での絶食下における4-8時間毎の診察と検査あるいは画像検査による評価,7点以上では急性虫垂炎と診断し手術対応可能な施設へ紹介となっています.

スコアリングは複数の身体症状や検査所見を利用するため,診断の確度が高くなります.また,スコアの高さは症状進行の目安になります.一方,スコアリングの主たる項目である腹部症状や所見は,主観に左右されてしまうという欠点があります.急性腹症の患児849例を対象にPASによるスコアリングを行ったところ,3点以下で帰宅させた609人のうち3人が急性虫垂炎と診断され,7点以上の104人のうち29人が急性虫垂炎ではなかったという報告があります.スコアリングは有用ですが,正しい診断には画像検査が必要になります.ただし,腹部エコー,CTによる正診率はそれぞれ92-96%,91-99%で,画像診断を用いても100%の正診率には至りません.急性虫垂炎は診断が非常に難しい病気です.

当院では今後はPASによるスコアリングを使用し,必要に応じて2次病院を紹介します.