2018年4月2日から放映が始まったNHK朝の連続テレビ小説「半分、青い。」の主人公は,楡野鈴愛(にれのすずめ)です.鈴愛は1971年に岐阜県の小さな町で生まれます.小学生の時に病気で左耳が聞こえなくなってしまいますが,家族や友人に支えられて明るい女の子に成長して行きます.右耳しか聞こえない鈴愛は,雨音が右耳からしか聞こえないことを面白がり,「半分、青い。」と呟きます.鈴愛は高校卒業後に漫画家を目指して上京しますが,挫折してしまいます.その後,結婚して娘を1人授かりますが,離婚してしまいます.シングルマザーとして岐阜に戻った鈴愛は,幼馴染の協力を得て扇風機を開発し,発明家として活躍します.

鈴愛の左耳が聞こえなくなった病気が,流行性耳下腺炎(おたふくかぜ,ムンプス)による難聴=「ムンプス難聴」です.

おたふくかぜは,「ほっぺたが腫れる」だけの病気ではありません.両側あるいは片側の耳下腺の腫れが97%にみられ,顎下腺や舌下腺の腫れも20%程度に認められます.唾液腺のほかに,精巣炎が13%,卵巣炎が4%,乳腺炎が10%,膵炎が4%に起こります.おたふくかぜの合併症としてよく知られているのは無菌性髄膜炎で,1-10%に起こります.脳炎が0.02-0.3%に起こり,後遺症や死亡に至ることがあります.ムンプスウイルスは,神経親和性が高いのが特徴です.おたふくかぜは耳下腺だけの病気でなく,全身疾患です.

おたふくかぜの神経合併症として意外と知られていないのが難聴です.内耳有毛細胞が障害を受け,高度の感音性難聴になります.耳下腺腫脹消失後1カ月以内に,難聴や前庭症状を呈します.予後は不良で,有効な治療法はありません.おたふくかぜ患者の1000人に1人が難聴になります.日本では,1年間に500-2000人のおたふくかぜによる難聴が発生していると推測されています.

ムンプス難聴の多くは聾といわれる極めて高度の難聴ですが,片側性が多いために学童期までは日常生活に支障がなく,見逃されてしまいます.しかし,思春期以後になると,ちょっとしたことが聞き取れず,周囲とのコミュニケーションに障害をきたすようになります.成人期には聴覚障害を強く自覚するようになり,めまいや耳鳴りなどの前庭症状を伴い,社会生活にも支障をきたすようになります.まれに,両側性の難聴が起こることがあります.

ムンプス難聴を発見するには,「指こすり」による聴覚検査が有効です.耳下腺腫脹消失後1カ月を目安に行います.検査法は以下の通りです.
(1)子どもの目の前で,親指と人差し指を,少し強めにこすってみせます.そしてカサカサという音が聞こえたら,音が鳴った側の手を上げるように教えます.
(2)次に,親は子どもの後ろに立ち,指が見えたり,髪に触れたりしないように注意しながら,耳の真横5cmくらいのところで,指を軽く5-6回こすります.指こすりの音の大きさは,親の耳にはほとんど届かない程度にしてください.
(3)検査を複数回行い,左右別々に聞こえるかどうかを判断します.

日本における2004-2006年の調査では,おたふくかぜ罹患後7400人を対象に「指こすり」による聴覚検査が行われ7人のムンプス難聴が発見されています.おたふくかぜに罹患したことのあるお子さんは是非一度上記の検査をしてみてください.

おたふくかぜでは,耳下腺腫脹7日前から9日後までムンプスウイルスが分離されますが,感染力が強いのは腫脹1-2日前から5日後までです.おたふくかぜには,感染しても症状が出現しない不顕性感染が約30%あります.このため,発症者の隔離のみで流行を阻止することは不可能で,ワクチンのみが唯一の効果的な予防法です.

「半分、青い。」を視聴すれば,ムンプス難聴の深刻さが理解できます.おたふくかぜに罹患したことのない方は,年齢を問わず是非ワクチンの接種を受けてください.おたふくかぜワクチンは2回接種が基本です.1回接種では抗体が減衰してしまいます.必ず2回接種を受けてください.