腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は,ベロ毒素(Vero toxin:VT)を産生またはVT遺伝子を保有する病原性大腸菌により下痢,血便,腹痛,発熱を主症状とする疾患です.溶血性尿毒症症候群(HUS)を併発した場合には,痙攣などの神経症状を起こし,腎不全に至り,死亡することがあります.

日本国内における感染症サーベイランスシステムによれば,2017年にはEHEC感染症患者が2606例,患者発生時の積極的疫学調査や調理従事者等の定期検便などで発見される無症状病原体保有者が1298例,合計3904例が報告されました.例年同様,夏に多くの患者報告がありました.都道府県別には,無症状を含むEHEC感染者数は,東京都,神奈川県,埼玉県,北海道,千葉県,愛知県,福岡県,大阪府,岩手県,長野県の上位10都道府県で全体の57%を占めました.人口10万人対では,岩手県(12.3)が最多で,長野県(6.6),山形県(5.6),佐賀県(5.4),岐阜県(5.0)が次いでいました.0-4歳では,保育所などで集団発生があった岩手県や佐賀県で多く発生していました.HUSを合併した症例は111例(有症者の4.3%)で,そのうち73例からEHECが分離されました.血清型の内訳はO157が58例で,毒素型はVT2陽性(VT2単独陽性およびVT1&2陽性)が59例を占めました.有症者のうちHUS発症者の割合が最も高かったのは5-9歳の低年齢層で8.0%でした.死亡例が10例ありました.

地方衛生研究所から2017年に報告されたEHECの菌数は1689でした.血清型は,O157が54%,O26が25%,O103が6.6%でした.毒素型は,O157ではVT1&2陽性が最も多く,O157の53%を占めました.O26,O103ではVT1単独陽性が最も多く,ぞれぞれのO血清群で99%,100%を占めました.0157が検出された908例における主症状は,下痢が60%,腹痛が59%,血便が48%,発熱が19%でした.

2017年に,地方衛生研究所から報告されたEHEC感染症の集団発生事例(菌陽性者が10名以上)は10件でした.発生月は3月が1件,6月が1件,7月が4件,8月が2件,9月が2件でした.血清型(毒素型)は,O157(VT1&2陽性)が2件,O157(VT2単独陽性)が1件,026(VT1単独陽性)が5件, 0103(VT1単独陽性)が2件,0111(VT1単独陽性)が1件でした(1件はO157(VT1&2陽性)+026(VT1単独陽性)).推定伝播経路は,人→人が8件,不明が2件でした.発生施設は,保育所が6件,幼稚園が1件,高齢者施設が2件,福祉養護施設が1件でした.一方,食品衛生法に基づいて都道府県等から報告されたEHECによる食中毒は17件で,患者数は168例でした.2017年に発生した主な集団食中毒事例としては,5月に滋賀県の飲食店で発生したO157による食中毒事例(患者数11例),8月に愛知県における仕出し弁当の喫食が原因となったO157による食中毒事例(患者数36例),8月に埼玉県,群馬県の総菜店で販売された食品が原因となったO157による食中毒事例(患者数24例,死者1例),8月に岡山県の焼肉店での食事が原因となったO157による食中毒事例(患者数16例),8月に愛知県の飲食店での食事が原因となったO157による食中毒事例(患者数12例),10月に新潟県で発生した豚肉と鶏肉の串焼きの喫食が原因となったO157による食中毒事例(患者数15例),などが挙げられます.

牛肉の生食による食中毒の発生を受けて,厚生労働省は2011年10月に生食用食肉の規格基準の見直しを,2012年7月に牛の肝臓の生食用販売の禁止を行いました.2012年10月には,漬物による0157の集団発生を受けて,漬物の衛生規範が改正されました.EHECは100個程度の少量の菌数でも感染が成立するため,人から人,人から食材・食品への経路で感染が拡大しやすいです.例年同様,2017年も飲食店等を原因施設とする食中毒事例が発生しています.食中毒予防の基本を守り,生肉や加熱不十分な肉は食べないなどの注意が必要です.保育所での集団感染も多数発生しており,その予防には手洗いの励行,簡易プール使用時における衛生管理が重要です.(病原微生物検出情報,Vol.39,No.5より引用抜粋).

当院では,2011年8月に,O157(VT1&2陽性)と026(VT1単独陽性)によるEHEC患者が1例ずつ発生しました.2015年7月には,下痢,血便の患者からO157(VT1&2陽性)が検出され,EHEC患者であることが確認されました.いずれもHUSは発症せず,治癒しました.家族内感染などの2次感染はありませんでした.感染経路は不明でした.

当院では,便培養を積極的に行い,EHECの発見に努めています.下痢が続き血便がある場合には,早目に受診してください.