風疹は,風疹ウイルスによっておこる病気です.感染してから2-3週間後に,赤くて小さな発疹が体中に出ます.熱は全く出ない場合もあれば,3日間高熱が続く場合もあります,頚部リンパ節が腫れることがあります.風疹にかかると,特発性血小板減少性紫斑病,脳炎,関節炎を併発することがあります.妊娠初期に風疹にかかると,生まれてくる赤ちゃんの目や耳や心臓に障害をきたすことがあります.これを「先天性風疹症候群」と呼びます.風疹を直接治療する方法はありません.

日本では,1976年,1982年,1987年,1992年を中心に概ね5年間隔で風疹が全国的に流行しました.その後,大きな流行はなくなりましたが,2002年から2004年に局地的流行がありました.ところが,2012年から2013年にかけて風疹が全国的に流行しました.患者報告数は16749例で,成人が9割を占めていました.内訳は,男性が80%,女性が20%で,男性は20-40歳代,女性は20歳代に多くの患者発生がありました.男性の95%,女性の88%が風疹ワクチンの接種歴が「なし」または「不明」でした.女性の感染経路は,夫が最多で,職場がこれに次いでいました.この時の流行は,海外の流行地域から風疹ウイルスが持ち込まれ,日本全国に波及したものでした.この流行を受けて,2012年から2014年にかけて,先天性風疹症候群児が判明しているだけで45例生まれました.これら45例の母親の風疹ワクチン接種歴を調査したところ,1回接種ありが9例,接種なしが16例,不明が20例でした.母親が妊娠中に風疹を発症したものが31例,発症しなかったものが4例,不明が10例でした.1978年から2002年までに発生した419例の先天性風疹症候群児の調査では,母親の妊娠前の風疹抗体が陽性だった可能性のあるものが41例あり,妊娠中に風疹の症状があったもの,なかったものが半々でした.母親が風疹抗体を持っていても,抗体が低値の場合には先天性風疹症候群の発生を阻止することはできません.

日本環境感染学会の「医療者のためのワクチンガイドライン第2版」によれば,風疹HI抗体価が8倍未満は陰性,16倍以下では発症予防効果はあるが体内でのウイルス増殖が起こる,32倍以上では体内でのウイルス増殖を抑制する,となっています.16倍以下では,先天性風疹症候群の発症を阻止できないということになります.

風疹ワクチンの接種回数や接種年齢は,生まれ年や男女で異なります.2018年4月現在,39-56歳では中学生女子の1回接種,31-38歳では中学生男女の1回接種,28-30歳では幼児期の1回接種,23-27歳では幼児期と18歳の2回接種,18-22歳では幼児期と13歳の2回接種でした.一般的には接種回数が多い方が高い抗体価を持つはずです.ところが,妊婦の風疹抗体価を調べてみると,意外な結果が得られています.新潟県内で行われた調査では,風疹HI抗体価が16倍以下の割合は,39-56歳では30%,31-38歳では20%,28-30歳では40%,23-27歳では50%,18-22歳では65%でした.風疹ワクチンの2回接種を受けた年齢群よりも1回接種の年齢群の方が,風疹抗体を保有している者が多いという結果でした.全国で同様の調査が行われていますが,同じような結果が得られています.

なぜこのような奇妙な結果が得られたのでしょうか?日本で行われた調査で,妊娠中に風疹HI抗体価が8倍未満つまり陰性だった18例の母親に出産後に風疹ワクチンの接種を行ったところ,その後17例は32倍以上の高い抗体価を得ましたが,1例は16倍の低抗体価しか得られませんでした.一方,妊娠中に8-16倍の低抗体価だった26例の母親に出産後に風疹ワクチンの接種を行ったところ,11例は32倍以上の高い抗体価を得ましたが,15例は16倍以下の低抗体価しか得られませんでした.風疹ワクチンを接種しても抗体の上がりにくい人がいて,このような人は何回接種を受けてもすぐに抗体価が下がってしまうようです.風疹ワクチンの1回接種を受けた年齢群では,集団免疫が十分でなかったために風疹が自然流行し,風疹ウイルスに暴露される機会がありました.風疹を発症する場合もあれば,発症しない場合でもブースター効果により抗体価が上昇し,十分な抗体価を保有または維持することが可能でした.一方,2回接種の年齢群では,風疹の自然流行が抑制されてしまったために,十分な抗体価を保有または維持できないでいるわけです.

妊娠適齢期の女性で2回の風疹ワクチンの接種を受けていない場合には,まず不足分の接種を受けてください.2回接種を受けてある場合でも,妊娠前に風疹抗体価を測定し,16倍以下の場合には風疹ワクチンの接種を受けてください.風疹ワクチン接種後2カ月間は妊娠しないでください. 妊娠適齢期の女性が家族,職場にいる男性も同様の措置が必要です.特に39-56歳の男性の風疹抗体保有率は非常に低いため,特段の注意が必要です.社会全体で風疹の流行を抑制しないと,先天性風疹症候群の発生を抑えることはできません.

ご心配な方は当院にご相談ください.年齢,性にかかわらず,風疹抗体価の測定,風疹ワクチンの接種を行います.