「新潟県感染症情報(週報速報版)平成30年第34週(8月20日から8月26日まで)」によると,新潟県内で1週間に百日咳(pertussis)の届け出が15件あったようです.男女別には男が8件,女が7件,年齢別には10歳未満が8件(乳幼児4件,学童4件),10歳以上が7件,地域別には新発田が2件,三条が1件,上越が12件でした.

百日咳は,百日咳菌の感染によって引き起こされる急性呼吸器感染症です.百日咳類縁菌であるパラ百日咳菌(Bordetella parapertussis)とBordetella holmesiiもヒトに感染し同様の咳症状を引き起こしますが,その症例数は極めて少ないです.百日咳菌はグラム陰性の短桿菌で,1906年にベルギーの細菌学者であるJ. BordetとO. Gengouにより初めて分離されました.「pertussis」は元々激しい咳を意味し,1578年にフランス人医師のG. de Baillouが報告したのが最初です.日本では江戸時代後期の文政期に百日咳と呼ばれるようになりました.百日咳菌は動物に感染する気管支敗血症菌(Bordetella bronchiseptica)が祖先とされ,ヒトに適応したものが百日咳菌に進化したと考えられています.

百日咳は,患者の咳やくしゃみなどにより飛沫感染します.感染すると,7-10日間の潜伏期間を経て風邪症状が始まり,咳が強くなって行きます.これをカタル期と呼び,約2週間続きます.その後,短い咳が連続的に起こるようになり,咳の最後に大きく息を吸い込み,咳を出して治るという症状を繰り返します.これを痙咳期と呼び,約2-3週間続きます.激しい咳は徐々に収まりますが,時々発作性の咳がみられます.これを回復期と呼び,約2-3週間続きます.

乳児が百日咳にかかると,無呼吸発作や脳症などが起きて重篤になりやすいです.特に生後6カ月未満では死に至る場合もあり,注意が必要です.一方,成人では長期間咳が続きますが比較的軽症のことが多く,受診や診断が遅れがちになります.

百日咳の診断に主に用いられて来た百日咳PT-IgG抗体価は,自然感染でもワクチン接種でも上昇します.百日咳菌の培養も検出率が低く,百日咳は診断が難しい疾患です.2017年には百日咳の診断ガイドラインが改訂され,LAMP法による遺伝子診断やPT IgA/IgM抗体の導入により診断精度は以前よりは向上しています.

2016年には,長野県木曽郡や東京都文京区などで百日咳の地域的流行がありました.流行株を調査したところ,木曽郡で分離された百日咳菌はすべて同じ遺伝子型でした.一方,文京区では百日咳菌とパラ百日咳菌が分離され,百日咳菌は2種類の遺伝子型,パラ百日咳菌は3種類の遺伝子型でした.地方と都市部では百日咳の流行形態が異なっていました.また,日本では2000年代から日本特有の遺伝子型が減少し,欧米型の遺伝子型が増加傾向を示しています.このような分子疫学的解析は世界中で実施されています.欧米では,百日咳ワクチン導入後に流行株の遺伝子型に大きな変化が認められています.日本で百日咳ワクチンに用いられている東浜株は50年以上前の株のため,流行株との間に抗原性のズレが生じている可能性があります.

日本では,乳幼児期に4回の4種混合(ジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオ)ワクチンの接種を受けます.日本では百日咳ワクチンは4回接種ですが,欧米諸国などでは5-6回接種です.日本では,百日咳PT抗体価が4-6歳までに減衰し,小学校1年生における陽性率は40%まで低下しています.その後,中学1年生では60%,大学新入生では80%と陽性率が上昇しており,この間に百日咳の感染が起きています.日本では百日咳ワクチンの接種回数不足のために抗体価が減衰し,百日咳患者の流行が抑制されていません.

平成30年1月1日より,百日咳を診断した医師は全例を報告することになりました.全国では同年8月19日までに4791件,新潟県では8月26日までに85件が報告されています.

百日咳は学校保健安全法により第2種感染症に定められており,特有の咳が消失するまでまたは5日間の適正な抗菌薬療法が終了するまでは出席停止です.ただし,病状により学校医やその他の医師が感染のおそれがないと認めた場合には,この限りではありません.

2018年8月1日に,「日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール」が改訂されました.就学前児の百日咳抗体価が低下していることを受けて5歳以上7歳未満で3種混合ワクチンを,百日咳の予防を目的に11-12歳で2種混合ワクチンの代わりに3種混合ワクチンの接種が新たに推奨されました.任意接種ですが,是非受けてください.