インフルエンザは,インフルエンザウイルスによって起こる急性熱性疾患です.主な症状は,38℃以上の急な発熱,咳,鼻汁,関節痛,筋肉痛などです.高齢者,乳幼児,妊婦などでは重症化しやすく,死に至ることもある病気です.インフルエンザウイルスは盛んに抗原変異をします.このため,毎シーズン前にインフルエンザワクチンの接種が必要になります.抗原変異が激しい場合には新種のウイルスが誕生し,世界的流行(パンデミック)を起こします.

近代以降,パンデミックは数十年に1度の割合で発生しています.1918年のスペインかぜ(A/H1N1)では5000万-1億人,1957年のアジアかぜ(A/H2N2)では100万人,1968年の香港かぜ(A/H3N2)では110万人,2009年の「いわゆる新型インフルエンザ」(A/H1N1pdm09)では15-57万人が全世界で死亡したと推定されています.この他に,1977年には旧ソ連の実験室から何らかの理由でウイルスが流出し,ソ連かぜ(A/H1N1)の局地的流行(エピデミック)が起こりました.A/H1N1pdm09の出現によって,ソ連かぜ(A/H1N1)は駆逐されてしまいました.近年,高病原性トリインフルエンザウイルスA/H5N1が,次にパンデミックを起こすのではないかと考えられて来ました.しかし,2013年以後中国で A/H7N9という新種のトリインフルエンザウイルスが流行し,家禽類からヒトへの感染が起きています.中国ではA/H7N9の患者の3分の1が死亡しています.現在では,A/H5N1ではなくA/H7N9が次にパンデミックを起こす可能性が高いと考えられています.これを受けて,2018年には,日本では今後A/H7N9のプレパンデミックワクチンを製造し,備蓄することが決定されています.

インフルエンザ治療薬としては,従来からタミフル,リレンザ,イナビル,ラピアクタなどのノイラニミダーゼ阻害薬が使用されて来ました.これらの薬剤は投与経路や剤型などに違いがありますが,作用機序は同じです.インフルエンザウイルスはヒトの細胞に感染をして,細胞内で複製,増殖をし,細胞表面に出現します.新たに合成されたインフルエンザウイルスが細胞から遊離をして,さらに他の細胞に感染をして,複製,増殖が繰り返されます.ノイラミニダーゼ阻害薬はインフルエンザウイルスの細胞からの遊離を阻止することで,複製,増殖のサイクルを止め効果を発揮します.2018年3月に,新しいインフルエンザ治療薬としてゾフルーザが発売されました.ゾフルーザは細胞内でのインフルエンザウイルスの複製,増殖を直接阻止することで効果を発揮します.ノイラミニダーゼ阻害薬とは作用機序が全く異なります.2008年に流行したA/H1N1はノイラミニダーゼ阻害薬に対して耐性でした.高病原性トリインフルエンザウイルスA/H5N1,A/H7N9でもノイラミニダーゼ阻害薬に対する耐性ウイルスが報告されています.ゾフルーザは臨床治験の段階で,成人の10%,小児の23%に耐性ウイルスが出現すると報告され,ほとんどはA/H3N2でした.ただし,ゾフルーザに耐性を示すインフルエンザウイルスの自然界における検出頻度は0.01-0.06%程度で極めて低く,増殖能も低いようです.このため,ゾフルーザ耐性ウイルスが臨床上大きな問題になる可能性は低いようです.ノイラミニダーゼ阻害薬とゾフルーザ投与後の平均症状消失時間はともに53時間で,両者に差がありません.一方,投与後翌日のインフルエンザウイルス量はノイラミニダーゼ阻害薬では10分の1程度ですが,ゾフルーザでは100分の1程度まで減少します.投与後のウイルス消失はゾフルーザの方が速いため,2次感染防止にはゾフルーザの方が優れているかもしれません.ゾフルーザ発売後初めての本格的なインフルエンザシーズンを迎えるため,ゾフルーザの評価はまだ定まっていません.

新潟県内では既に11月中にA型インフルエンザの散発的流行が確認されています.当院では,11月30日に今シーズン最初のA型インフルエンザ患者が発生しました.これから本格的流行シーズンを迎えます.十分注意しましょう.