アトピー性皮膚炎は,アレルギー素因による免疫学的異常に乾燥肌や皮膚バリア機能の異常や破綻が加わって発症します.正しいスキンケアにより皮膚を良い状態に保つことで,アトピー性皮膚炎の発症や増悪を防ぐことができます.

皮膚の最表層には皮脂膜があります.皮脂膜は,皮脂と汗が混じり合って形成されたものです.成分としてスクワレン,トリグリセリド,ワックス,脂肪酸,コレステロールなどを含み,水分の蒸発を抑制します.皮脂膜の下には,角層があります.角質細胞内には天然保湿因子があり,成分としてアミノ酸、ピロリンカルボン酸,乳酸塩,尿素を含み,細胞内の水分を保つ働きがあります.角層細胞間脂質は,角層の細胞間を満たす脂質です.成分としてセラミド,脂肪酸,コレステロールを含み,バリア機能を発現します.角層の下には,顆粒層があります.顆粒層の細胞間にはタイトジャンクションが存在し,透過性バリアの役割を演じています.皮膚のバリア機能や水分保持能は,このように多くの因子が関わっています.

痒みにより皮膚を強く掻くと角層が破壊されます.発汗が低下すると皮脂膜が減少します.フィラグリン遺伝子異常があると天然保湿因子が減少します.角層細胞間脂質(セラミド)の減少によってバリア機能が低下します.タイトジャンクションの破壊によってもバリア機能は低下します.このようにして,アトピー性皮膚炎では皮膚のバリア機能や水分保持能の異常が起きます.

保湿剤によるスキンケアの有効性については,数多くの研究成果が報告されています.保湿剤の塗布は,アトピー性皮膚炎患者の皮膚の角層水分量や皮膚症状の改善に有効です.保湿剤の併用により,ステロイド外用薬の使用量を減らすことができます.ステロイド外用薬による治療後に保湿剤塗布を続けると,アトピー性皮膚炎の寛解状態を長期間維持することができます.アトピー性皮膚炎の家族歴のある乳児に出生直後から保湿剤を塗布し続けると,アトピー性皮膚炎の発症率が有意に低下します.

入浴やシャワー浴による皮膚の洗浄は,アトピー性皮膚炎の症状を改善します.とくに重症患者,汗の多い季節ほどその効果が高くなります.

保湿剤にはいくつかの種類があります.油脂性軟膏(ワセリン,プロペト,亜鉛華軟膏など)は安価で刺激感がほとんどありませんが,ベタつきが強く使用感がよくない場合があります.尿素製剤(パスタロンなど)は保湿効果が高くベタつきが少ないですが,皮膚炎の部位に塗布すると刺激感がある場合があります.ヘパリン類似物質(ヒルドイドソフト,ヒルドイドローションなど)は保湿効果が高くベタつきが少なく伸ばしやすいですが,僅かに臭いがあります.

入浴直後に保湿剤を塗布した方が,保湿効果が高くなるという研究結果は未だ得られていません.しかし,入浴により上昇した角質水分量が時間とともに減少すること,習慣として日々のスキンケアを行うことを考えると,入浴後できるだけ速やかに保湿剤を塗布することが望ましいでしょう.

保湿剤の単回塗布では,塗布量が多いほど角層水分量が多くなるという結果が得られています.しかし,連日塗布を行うと,塗布量を増やしても角質水分量に大きな違いはありませんでした.塗布回数については,1日1回塗布よりも2回(朝と入浴後)塗布の方が皮膚の角層水分量が多くなっていました.したがって,塗布量をむやみに増やすよりも十分な量を回数多く塗布する方が保湿効果は高くなります.

42℃以上の熱いお湯では痒みが誘発され,皮膚バリアの回復が遅れてしまいます.アトピー性皮膚炎では,入浴時のお湯は38-40℃が適温です.季節によって調節しましょう.

石鹸の主成分は界面活性剤です.皮脂の過剰な除去,天然保湿因子や角層細胞間脂質の溶出は,皮膚のバリア機能の低下や角層水分保持能を低下させます.乾燥が強い症例や部位,季節では石鹸の使用は最小限にします.逆に,脂性肌や脂漏部位,軟膏を毎日塗る部位,皮膚感染症を繰り返す部位には,積極的に使用します.石鹸は,基剤が低刺激性,低アレルギー性で,色素や香料などの添加物ができるだけ少ないもの,刺激感がなく使用感が良いものを選びましょう.アトピー性皮膚炎では皮膚表面のpHが上昇しており, pHの上昇とともにアミノ酸溶出量が増加することから,弱酸性の石鹸が望ましいです.皮膚を傷つけることがないように石鹸をよく泡立て,掌(手のひら)などの機械的刺激の少ない方法で皮膚の汚れを落とし,石鹸が皮膚に残存しないように十分にすすいでください.