1928年にペニシリンが発見されて以来,数々の抗菌薬が開発されて来ました.経済発展に伴う栄養状態の改善や社会基盤の整備による衛生環境の改善や向上があったにせよ,抗菌薬の登場が人類の健康に大きく貢献したことは間違いありません.しかし,一方で,近年は抗菌薬の不適正あるいは過剰な使用が問題になっています.抗菌薬を投与して細菌を死滅させようとすると,細菌は生き延びるために「薬剤耐性菌」へと自らを変身させます.新たな抗菌薬の開発はさらなる薬剤耐性化を引き起こしてしまう様子は,まるで「イタチごっこ」のようです.抗菌薬の服用は健全な腸内細菌叢を破壊し,副作用として下痢を引き起こすことはよく経験されることです.乳幼児期の不要な抗菌薬使用は,アレルギー性疾患の発症リスクを高める可能性が指摘されています.抗菌薬は必要時以外には,服用すべきではありません.

当たり前のことですが,抗菌薬は細菌感染症に対して使用すべき薬剤であり,ウイルスが原因である感冒や気管支炎には効きません.しかし,大変残念ながら,お薬手帳を拝見するとどう考えても抗菌薬の不適正使用と考えざるを得ない事例にしばしば遭遇します.よく見られるものは,以下の通りです.

1.クリスロマイシン(商品名:クラリス,クラリシッドなど)
(1)咳が出るという理由だけでクリスロマイシンが処方されている場合があります.一般の小児科診療でクラリスロマイシンの処方が必要になる咳疾患は,マイコプラズマ感染症と百日咳です.ごく稀に肺炎クラミジア感染症などがあります.これらの疾患はLAMP法や抗体検査などで診断が可能です.咳のほとんどはウイルス性の感冒や気管支炎が原因なので,特効薬はなく,自然治癒を待つしかありません.クラリスロマイシンをむやみに服用しても咳が止まるわけではありません.
(2)滲出性中耳炎の治療にクラリスロマイシン少量投与を行なうことがあります.原則として,滲出性中耳炎に慢性副鼻腔炎が合併している場合に行われます.滲出性中耳炎の多くは去痰剤のカルボシステイン(商品名:ムコダインなど)の投与で治癒に至る場合がほとんどです.カルボシステインの投与が数週間に及ぶこともありますが,クラリスロマイシンの処方なしで十分に治療が可能です.
(3)慢性副鼻腔炎の治療にクラリスロマイシン少量投与を行なうことがあります.いびきや開口睡眠などの臨床症状があり且つX線上明らかに鼻粘膜の肥厚がある場合に適応になります.無症状の小児でもX 線上約半数に副鼻腔陰影が認められます.副鼻腔陰影の全てが治療対象になるわけではありません.

2.セフェム系抗菌薬(商品名:セフゾン,メイアクト,フロモックス,トミロンなど)

急性咽頭炎,急性中耳炎,急性細菌性副鼻腔炎,急性肺炎(マイコプラズマ肺炎を除く)などで抗菌薬が必要な場合,第1選択薬はアモキシシリン(商品名:ワイドシリンなど)です.薬疹の既往など特殊な事情がある場合を除けば,いきなりセフェム系抗菌薬が必要になることはありません.
(1)急性咽頭炎の原因の20-30%は溶連菌で,この場合にはアモキシシリンの投与が10日間必要になります.ウイルス性咽頭炎は当然ですが,淋菌やクラミジアなど特殊な菌以外は抗菌薬の適応ではありません.溶連菌感染症は迅速診断キットで十分に診断が可能です.セフェム系抗菌薬5日間投与も効果がありますが,アモキシシリンに比べて優位性があるわけでなく医療費が高くなるため,第1選択ではありません.アモキシシリンで薬疹の既往がある場合には,セファレキシン(商品名:ケフレックス)が投与されます.
(2)急性中耳炎では,原則として2歳未満や48-72時間続く発熱や耳痛がある場合が抗菌薬の適応です.軽症例では経過観察で十分です.抗菌薬が必要な場合の第1選択薬はアモキシシリンで,高用量が必要になります.セフェム系抗菌薬や新規抗菌薬のテビペネム(商品名:オラペネム)やトスフロキサシン(商品名:オゼックス)の投与は,アモキシシリンが無効な場合に考慮されます.
(3)急性細菌性副鼻腔炎では,症状が10-14日以上持続する,顔面の腫脹や疼痛がある,高熱を伴って症状が増悪する場合が抗菌薬の適応です.第1選択薬はアモキシシリンです.他の抗菌薬の投与は.アモキシシリンが無効な場合に考慮されます.感冒に伴う膿性鼻汁に抗菌薬を投与しても,有意な効果はありません.
(4)急性肺炎の原因が一般細菌で,抗菌薬が必要な場合には第1選択薬はアモキシシリンです.他の抗菌薬の投与は.アモキシシリンが無効な場合に考慮されます.

既に,小児科医の間では,抗菌薬の適正使用が広く周知されています.子どもに発熱,咳,鼻汁,耳痛,耳だれなどの症状が出現した場合には,まず小児科医を受診してください.