腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症は,ベロ毒素(Vero toxin:VT)を産生またはVT遺伝子を保有する病原性大腸菌により下痢,血便,腹痛,発熱を主症状とする疾患です.溶血性尿毒症症候群(HUS)を併発した場合には,痙攣などの神経症状を起こし,腎不全に至り,死亡することがあります.

日本国内における感染症サーベイランスシステムによれば,2018年にはEHEC有症者が2581例,患者発生時の積極的疫学調査や調理従事者等の定期検便などで発見される無症状病原体保有者が1271例,合計3852例が報告されました.例年同様,夏に多くの患者報告がありました.都道府県別には,無症状を含むEHEC感染者数は,東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県,大阪府,北海道,福岡県,愛知県の上位8都道府県で全体の51%を占めました.人口10万人対届出数では,群馬県(6.1)が最多で,秋田県(5.6),岩手県(5.3),山形県(5.3),石川県(5.2), 福井県(5.0), 長野県(5.0)が次いでいました.0-4歳の人口10万人対届出数では,宮崎県(41.3),鹿児島県(33.8),長野県(33.8),島根県(33.3),群馬県(32.4)で多くなっていました.

HUSを合併した症例は69例(有症者の2.7%)で,そのうち47例からEHECが分離されました.O血清群の内訳はO157が70%(33例),毒素型はVT2陽性(VT2単独陽性およびVT1&2陽性)が85%(40例)を占めていました.有症者のうちHUS発症者の割合が最も高かったのは0-4歳の低年齢層で6.5%でした.死亡例が1例ありました.

地方衛生研究所から2018年に報告されたEHECの菌数は2140でした.O血清群の内訳は,O157が56%,O26が24%,O121が4%でした.毒素型は,O157ではVT1&2陽性が最も多く,O157の63%を占め,VT2単独は35%でした.O26はVT1単独陽性が最も多く97%を占め,O121は全てVT2単独タイプでした.0157が検出された1198例における主な症状は,下痢が62%,腹痛が61%,血便が47%,発熱が21%でした.

2018年に,地方衛生研究所から報告されたEHEC感染症の集団発生事例(菌陽性者が10名以上)は11件でした.発生月は5月が1件,6月が1件,7月が2件,8月が5件,9月が1件,10月が1件でした.O血清群(毒素型)の内訳は,O157(VT1&2陽性)が3件,026(VT1単独陽性)が8件でした.推定伝播経路は,人→人が7件,食品が2件,不明が2件でした.発生施設は,保育所が9件(うち1件は認定こども園),飲食店が2件でした.

一方,食品衛生法に基づいて都道府県等から報告されたEHECによる食中毒は32件で,患者数は456例でした.2018年に発生した主な集団食中毒事例としては,5月に埼玉県の老人ホームで発生したO157による食中毒事例(患者数10例),7月に兵庫県で発生した加熱不十分なハンバーグ喫食が原因となったO157による食中毒事例(患者数9例),8月に東京都の飲食店で提供された食事が原因となった食中毒事例(患者数194例),8月に静岡県の飲食店で提供された食事が原因となった食中毒事例(患者数60例),8月に長野県等のハンバーガーチェーンで発生したO121による食中毒事例(患者数11例)などが報告されました.

牛肉の生食による食中毒の発生を受けて,厚生労働省は2011年10月に生食用食肉の規格基準の見直しを,2012年7月に牛の肝臓の生食用販売の禁止を行いました.2012年10月には,漬物による0157の集団発生を受けて,漬物の衛生規範が改正されました.EHECは100個程度の少量の菌数でも感染が成立するため,人から人,人から食材・食品への経路で感染が拡大しやすいです.例年同様,2018年も飲食店等を原因施設とする食中毒事例が発生しています.食中毒予防の基本を守り,生肉や加熱不十分な肉は食べないなどの注意が必要です.保育所での集団感染も多数発生しており,その予防には手洗いの励行,簡易プール使用時における衛生管理が重要です.(病原微生物検出情報,Vol.40,No.5より引用抜粋).

当院では,2011年8月に,O157(VT1&2陽性)と026(VT1単独陽性)によるEHEC患者が1例ずつ発生しました.2015年7月には,下痢,血便の患者からO157(VT1&2陽性)が検出され,EHEC患者であることが確認されました.いずれもHUSは発症せず,治癒しました.家族内感染などの2次感染はありませんでした.感染経路は不明でした.

2018年夏から秋にかけて新潟県では,多数の腸管出血性大腸菌感染症患者の発生が報告され,O157,0121,0103,O26などが検出されました.疫学調査が行われたようですが,具体的な感染経路などは特定できませんでした.今年5月には長岡で2例,南魚沼で1例の腸管出血性大腸菌感染症患者が発生し,O157が検出されています.

当院では,便培養を積極的に行い,EHECの発見に努めています.下痢が続き特に血便がある場合には,早目に受診してください.