ロタウイルス胃腸炎は,例年寒さが緩む2-3月頃に流行します.ときに他の季節に流行します.好発年齢は2歳以下です.母親からの移行抗体が消失する生後6カ月頃から発症します.主な感染経路は糞口感染で,潜伏期間は2-3日です.患者の便1g中に10の11乗個の大量のロタウイルスが存在しますが,1-10個のロタウイルスで感染が成立してしまいます.ロタウイルスは感染力が極めて強いのが特徴です.主な症状は,発熱,嘔吐,下痢,腹痛です.発熱は40-60%にみられ,通常は2日間で解熱します.嘔吐は60-90%の症例に出現し,通常2日目以後は減少し,その後下痢が始まります.下痢の性状は水様便が多く,約半数の患児に,豆腐をつぶした,あるいは紙粘土のような白色便,クリーム色便が認められます.下痢は1日数回から十数回に及び,7-14日間続きます.嘔吐や下痢により脱水や電解質異常をきたします.一晩で高度の脱水に陥り,命にかかわることがあります.合併症として肝機能異常,痙攣,まれに脳炎・脳症があります.目が落ち窪んでいる,ぐったりしている,皮膚に張りがないなどの重症例では入院が必要になります.

ロタウイルス胃腸炎の予防のために,ロタワクチンが用いられています.ロタワクチンには,2回接種の1価ロタワクチン(商品名:ロタリックス)と3回接種の5価ロタワクチン(同:ロタテック)があります.

ロタワクチンの効果は絶大です.米国におけるロタワクチンの2013年の接種率は73%で,導入前に比べロタウイルス胃腸炎患者が58-90%,1-4歳における入院や救急外来受診が80-89%減少しました.2016年時点でロタワクチンは世界81カ国で定期接種化されています.大変残念ながら,日本では未だに定期接種になっていません.

1型糖尿病は,インスリン依存型糖尿病とも呼ばれます.血糖を下げる働きを持つインスリンというホルモンは,膵臓のβ細胞から分泌されます.1型糖尿病では,体内のリンパ球が自分自身のβ細胞を敵と勘違いして攻撃をしてしまいます.その結果,β細胞が傷害され,インスリンが分泌されなくなってしまいます1型糖尿病は自己免疫疾患の1つです.過去のウイルス感染などが誘因になる場合もあるとされていますが,詳しい発症機序は未だ不明です.1型糖尿病を発症すれば,インスリンの自己注射を生涯続ける必要があります.

米国のミシガン大学の研究グループは,全米規模の医療保険データベースを用いて,ロタワクチンの接種状況とその後の1型糖尿病の発症率を検討しました.米国では2006年に初めてロタウイルスワクチンが導入され,現在は1価ワクチンと5価ワクチンの2種類が用いられています.2006-17年に出生した児では,ロタワクチンの完全接種が54万317人,不完全接種が14万646人,未接種が24万6600人でした.その後約2年間の追跡調査をしたところ,完全接種児で192例,不完全接種児で81例,未接種児で166例が1型糖尿病を発症していました.1型糖尿病の発症率は,1年10万人当たりそれぞれ12.2,20.5,20.6でした.統計学的処理をすると,ロタワクチン完全接種児では未接種児に比べ1型糖尿病の発症リスクが33%低下していました.一方,不完全接種児では未接種児に比べて1型糖尿病発症率の低下は認められませんでした.ロタワクチンの種類別に見ると,完全接種児の1型糖尿病発症リスクの低下は1価ワクチンでは27%,5価ワクチンでは37%で,5価ワクチンの方がより発症リスクを低下させていました.

米国と同様に,ロタワクチン導入後の1型糖尿病発症リスクの低下はオーストラリアでも報告されています.また,1型糖尿病で傷害される膵臓のβ細胞を,ロタウイルスが傷害するという実験結果が得られています.

任意接種にもかかわらず,ロタワクチンの接種率は日本全国で7割,新潟県では8割と推測されています.当院では,1型糖尿病の発症リスクをより低下させると報告された5価ワクチン(商品名:ロタテック)を使用し,9割の乳児が接種を受けています.

ロタワクチンは,ロタウイルス胃腸炎を予防するだけでなく,1型糖尿病の発症予防効果がある可能性が示唆されました.是非接種を受けてください.