毎年,夏から秋にかけて「ハチに刺された!」という訴えで受診する患者さんがいます.7月28日には,佐渡で50歳の男性が草刈り中に2回ハチに刺されて死亡しました.1回目のハチの種類は不明ですが,2回目はアシナガバチだったようです.

厚生労働省の人口動態統計によれば,日本では,年間20人前後がハチ刺傷により死亡しています.死因の多くは,ハチ毒アレルギーによるアナフィラキシーショックです.ハチ刺傷による全身症状の発症機序としては,
(1)ハチ毒に対するIgEを介したアナフィラキシー,
(2)IgEを介さずに多量のハチ毒注入によるアナフィラキシー様反応,の2つがあります.

ハチは,スズメバチ亜科,アシナガバチ亜科,ミツバチ科の3つに分類されます.スズメバチとアシナガバチの主要抗原は,フォスフォリパーゼA1やAntigen5などで共通抗原性があります.このため,アシナガバチに刺されて全身症状を起こした患者は,スズメバチに刺されても同じような症状を起こします.一方,ミツバチの主要抗原はフォスフォリパーゼA2やmelittinなどのため,スズメバチとアシナガバチのハチ毒との共通抗原性は低いです.

ハチに刺されても症状が軽い場合には蕁麻疹や紅斑などの皮膚症状のみですが,アナフィラキシー反応が進むと吐き気などの消化器症状や血管性浮腫が起きます.さらに進むと気道浮腫による呼吸困難や喘鳴などの呼吸器症状を呈し,最重症の場合にはショックに陥り血圧低下や意識消失に起こし,死に至る場合があります.これらの症状は多くの場合ハチ刺傷の30分以内に生じ,一般に症状発現までの時間が短いほど重症です.

ハチ刺傷により全身症状が認められた場合,再刺傷によって50-60%人が前回刺傷時よりも重症化します.再刺傷までの間隔が短いほど,全身症状が起こりやすくなります.また,刺傷部位の腫れが数日間続き広範囲に及ぶ場合には,再刺傷時に強い全身症状を起こす確率が高くなります.一方,全身症状を呈した場合であっても,3-5年間刺されていなければ再刺傷時に全身症状が出現する確率は50%から35%に,10年間刺されていなければ25%に減少します.

成人では,ハチアレルギーは職業性アレルギー疾患として有名です.患者数は,スズメバチおよびアシナガバチでは林業・農業従事者,ゴルフ場従事者,建設業,造園業の順に多く,ミツバチではイチゴ農家,養蜂業の順に多くなっています.

小児ではハチに刺されても多くは皮膚症状や血管性浮腫が主症状で,成人に比べると比較的軽症です.ショックに至る例は少ないと報告されています.しかし,1%に重篤な全身症状が出現することがあります.初回刺傷で軽症の場合には,再刺傷でも91%の患児で全身症状の出現はありません.一方,中等症から重症を経験した小児では,32%が同程度の全身症状を起こします.

ハチ刺傷を回避するために,屋外での活動時には,長そで,長ズボン,手袋などを着用しましょう.ハチが近づいて来たら,顔を下向きにして,目を閉じ,じっと動かないようにしましょう.ただし,ハチの数が増えて攻撃が始まった場合には,その場から逃げましょう.

ハチに刺されて毒針が残った場合には,直ちに爪などで除去してください.皮膚に残った毒針を強く押したり,深く押し込んだりしないでください.ハチ毒吸引器をもっている場合はハチ毒を吸い出してから,患部を冷やします.手足を刺された場合には心臓に近いところを縛るなどの処置を行います.抗ヒスタミン薬などを医師から処方されている場合には,直ちに服用してください.過去にハチ刺傷によるアナフィラキシーを経験している場合,全身性のアナフィラキシーあるいはアナフィラキシーショックが起きた場合には,直ぐにエピネフリンの注射が必要になります.野山での作業をする機会が多い人は,エピネフリン自己注射キット「エピペン」を常に携帯することをお勧めします.当院で,エピペンを処方します.必要な方はご相談ください.