アスベリン(一般名:チベピジンヒベンズ酸塩)は,日本国内で開発された非麻薬性の中枢性鎮咳薬です.1959年に発売された非常に古い薬で,以後「咳止め」として広く使用されて来ました.しかし,その薬効はイヌ,ウサギ,ハトにおける動物実験を根拠とするもので,ヒトでの薬効は示されていません.アスベリンは日本国内だけで使用されている薬剤で,海外では使用されていません.

患者さんが持参するお薬手帳をめくってみると,風邪処方としてアスベリンが処方されています.このような処方は医学的に妥当でしょうか?

日本外来小児科学会が発行する「外来小児科,2019年5月号」に,「急性咳嗽を主訴とする小児の上気道炎患者へのチベピジンヒベンズ酸塩の効果」という論文が掲載されています.14カ所の小児科診療所で,咳を主訴に受診した1-6歳の252例の小児を対象に臨床研究が実施されました.126例には去痰剤のムコダイン(一般名:カルボシステイン)のみが,126例にはアスベリンとムコダインが処方されました.その結果,アスベリンとムコダインを処方された小児では,ムコダインのみを処方された小児よりも,咳が良くなったという回答が少なく,咳の強さの改善も悪かったという結果でした.ムコダインにアスベリンを加えると,咳の治りが悪くなる可能性が示唆されました.

上記の研究結果を支持するように,各種ガイドラインには中枢性鎮咳薬について以下の通りに記載されています.

「小児の咳嗽診療ガイドライン(日本小児呼吸器学会,2014年発行)」には,「咳嗽に関するガイドライン第2版(日本呼吸器学会,2012年発行)」を引用して,「中枢性鎮咳薬は,咳嗽の特異的治療にはなり得ないため,胸痛,頭痛,肋骨骨折などの合併症を伴い,患者のQOLを著しく低下させる咳嗽の場合に限って使用するのが原則である.また,喀痰を伴う湿性咳嗽にむやみに中枢性鎮咳薬を投与すると,痰の喀出を抑制し,感染症を増悪させる可能性もあり禁忌である.」と記載されています.

「咳嗽・喀痰の診療ガイドライン(日本呼吸器学会,2019年発行)」の小児における鎮咳薬の項には,「中枢性鎮咳薬は咳嗽の特異的治療になり得ないため,合併症を伴い患者のQOLを著しく低下させる場合に限って使用するのが原則である.推奨グレートC(=実施しないことを提案(条件付きで推奨)する)」,「小児における喀痰を伴う咳嗽に対して鎮咳薬の有効性は限定的で安全性は年齢に依存し,コデインの使用は原則禁忌である.推奨グレートD(=実施しないことを推奨する)」と記載されています.

咳は,元来,気道内の痰や異物を気道から喀出するための生体防御反応です.咳チックなどの心因性の場合を除けば,気道の咳受容体が刺激され,この刺激が咳中枢へ伝わり,痰や異物を体外に出そうとして「咳」が発生します.無理矢理咳を止めてしまえば,痰詰まりが起こり,異物の除去が行われずに呼吸困難に陥ります.重篤な場合には,窒息死してしまいます.

小児は成人に比べ,気道が狭いため僅かな分泌物でゼーゼー・ヒューヒューなどの狭窄症状を起こしやすい,気道軟膏の発達が十分でないため気道がつぶれやすく狭窄症状が出やすい,咳が弱いために喀痰の排出がしづらい,新生児や乳児では口呼吸が確立していないため鼻腔に分泌物が貯まると呼吸困難になりやすい,呼吸中枢が未熟なため無呼吸を起こしやすい,呼吸予備能が低いために軽微な要因でも呼吸困難に陥りやすい,胸郭が柔らかく肋骨が平行なために十分な換気量を確保しにくい,呼吸筋とくに横隔膜の働きが未発達であるなどの特徴があります.このため,感染が原因で呼吸困難や呼吸不全になりやすく,慎重な観察と十分な治療が必要になります.小児は単に成人を小さくしたものではなく,機能的な「弱さ」を持っています.小児では痰詰まりが起こりやすく,中枢性鎮咳薬の投与は不適当です.

「咳が出るから,止めればよい.」というのは間違っています.アスベリンを含む中枢性鎮咳薬は服用しないでください.当院では10数年以上,中枢性鎮咳薬を処方していません.