マラソン,自転車をこいで坂を登る,階段を急ぎ足で昇るなどの激しい運動により,気管支喘息の発作が起こることがあります.これを「運動誘発喘息」と呼びます.

運動をすると換気が増大し,口呼吸による気道の冷却と水分喪失が起こります.これにより気道上皮の浸透圧の上昇が刺激となって,プロスタグランジンやロイコトリエンなどの化学伝達物質が遊離され,気道の平滑筋収縮が起こります.呼気中の一酸化窒素濃度(FeNO)が上昇していると運動誘発喘息が起こりやすいことから,気道の慢性炎症が関与しています.

喘息の症状の1つと考えられてきた運動誘発喘息が,健常者でも運動後に起こることが明らかになっています.特に冬季にアスリートが競技中や練習中に喘息発作を起こすことがあり,冷気自体が気道炎症のリスクと考えられています.健常者で運動負荷試験をすると発作が起こる人と起こらない人がいますが,発作を起こした人では気道炎症が認められます.本来は健常者には気道に炎症はないはずですが,冷気により炎症が起きやすい人が存在するようです.

運動誘発喘息があると,生活の質が落ちます.小児では学校での体育授業やクラブ活動があるため,運動誘発喘息があると運動嫌いや学校嫌いになる場合があります.運動は,子どもの成長や発達にとって不可欠です.健康な子どもと同じように生活をするという観点から,運動誘発喘息を予防することは大切です.

運動誘発喘息の予防にとって効果的な対応は以下の通りです.
1.運動誘発喘息には不応期の存在が知られています.軽く運動誘発喘息を起こす程度のウォーミングアップを行うと,目的とする運動の際に運動誘発喘息が軽くなります.

2.薬剤などによる予防
(1)運動負荷の15分前にβ2刺激薬の吸入を,60分前に短時間作用性β2刺激薬の内服を行うと,運動誘発喘息が抑制されます.ただし,β2刺激薬の連用は気道過敏性を亢進させるという報告があることから,その使用は導入時のできるだけ短期間にします.
(2)運動の15分前にDSCGを吸入すると,運動負荷後の呼吸機能の低下が抑制されます.
(3)ロイコトリエン受容体拮抗薬は運動誘発喘息の予防に有効です.
(4)運動誘発喘息の発現は,喘息のコントロール不良を示すものです.運動誘発喘息を繰り返す場合には,治療ステップを上げる必要があります.

3.その他の予防法
(1)マスクの着用により,吸気の湿度と温度が保持されます.気道からの水分喪失が阻止され,運動誘発喘息を予防してくれます.しかしながら,マスクの使用により吸気がやや困難になることがあるので注意が必要です.
(2)適切な運動を継続することにより,運動誘発喘息の改善が得られます.かつては運動誘発喘息を起こしにくい運動として水泳が推奨されていましたが,水泳に限らず楽しくできる運動を継続することが大切です.ただし,冷たく乾燥した空気を吸うことになる冬季のマラソンは運動誘発喘息を起こしやすいので注意が必要です.

秋は,気温の急激な低下などにより気管支喘息の発作が多発します.同時に,運動会やマラソン大会などが多く開催され,運動誘発喘息が最も起きやすい季節です.

私は趣味でマラソンをやっていますが,運動誘発喘息があります.鼻閉型のアレルギー性鼻炎の治療も兼ねて,ロイコトリエン受容体拮抗薬を常用しています.冬季にはマスクをして走ります.大会前にはステロイド吸入薬を使用する場合もあります.以前は気温が15℃前後でひどく咳き込みましたが,最近は慣れてきたせいか10℃未満でないと咳が出なくなりました.不応期を利用して,運動誘発喘息の回避することができます.すなわち,10-15分間走って軽い咳き込みをわざと起こすと,その後数時間は咳き込むことなく走ることができます.しかし,ロイコトリエン受容体拮抗薬を服用しないと,やはり咳き込んでしまいます.

運動誘発喘息が起こる場合には,当院にご相談ください.適切に治療します.