甲状腺は喉仏(のどぼとけ)の下にある小さな器官です.ヨウ素を材料にして甲状腺ホルモンを産生し,体の様々な部分に送り出す大切な臓器です.甲状腺ホルモンの量は,脳下垂体から分泌される甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって調節されています.

甲状腺ホルモンには,食べた物をエネルギーに替えて細胞の新陳代謝を活発にする,交感神経を刺激して心臓の働きを調整する,子どもの成長や発達を促進する,などの働きがあります.

甲状腺に何らかの病気が起こると,甲状腺ホルモンの産生に異常を来たします.甲状腺ホルモンが過剰になると,動悸や息切れ,疲れやすい,イライラするなどの症状が出現します.一方,甲状腺ホルモンが不足すると,気力がなくなる,寒がりになる,顔や手がむくむ,などの症状が出現します.

日本国内における甲状腺の病気の患者数は,500万人と推定されています.甲状腺の病気は男性よりも女性に圧倒的に多く,男女比はバセドウ病で1:6,慢性甲状腺炎(=橋本病)で1:10-20です.

主な甲状腺の病気は以下の通りです.

バセドウ病:甲状腺ホルモンが過剰に産生される病気で,20-30歳代の女性に多くみられます.主な症状は動悸,眼球突出,甲状腺の腫れですが,このほかに息切れ,多汗,暑がり,手の震え,イライラ,疲れやすい,食欲亢進,体重減少などがあります.原因は,免疫の仕組みの異常です.甲状腺を刺激してホルモンを産生させる自己抗体(TSHレセプター抗体:TRAb)ができ,無秩序に甲状腺ホルモンが作られてしまいます.

慢性甲状腺炎(橋本病):甲状腺に慢性の炎症が起きている状態で,40歳以上の女性の12-13人に1人が発症すると言われています.ほとんどの症例では甲状腺ホルモン値は正常範囲のため,治療は不要です.原因は,免疫の仕組みの異常です.血液検査でサイログロブリン抗体(TgAb)あるいは甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)という自己抗体が陽性であれば,慢性甲状腺炎と診断されます.甲状腺炎における炎症が強くなると甲状腺ホルモンの産生が低下し,甲状腺機能低下になることがあります.定期的な甲状腺ホルモンの測定が必要になります.甲状腺機能が低下すると,気力がなくなる,顔や手がむくむ,脈が遅い,体重増加,肌荒れ,寒がりになる,眠気,食欲不振,便秘などの症状が出現します.甲状腺の機能が低下した場合には,甲状腺ホルモン製剤(レボチロキシンナトリウム:LT4)を服用します.

無痛性甲状腺炎:何らかの原因で甲状腺に痛みを伴わない炎症が起き,甲状腺に蓄えられていた甲状腺ホルモンが溢れ出す病気です.甲状腺ホルモンが血中に過剰に出るためバセドウ病と同じような症状になりますが,時間が経てば正常化していくので,ほとんどの場合に治療は不要です.無痛性甲状腺炎ではTRAbは陰性のため,バセドウ病と見分けるために血液検査が必要です.

亜急性甲状腺炎:甲状腺の炎症により甲状腺ホルモンが血中に溢れ出てくるので,バセドウ病や無痛性甲状腺炎と同じような症状になります.発熱,甲状腺の腫れ,痛みを伴います.ウイルス感染が原因となると言われていますが,発症機序は不明です.

甲状腺腫瘍:甲状腺にしこりやこぶができます.良性のものと悪性のものがあります.超音波検査や穿刺細胞診などが必要になります.

甲状腺の病気が疑われる場合には,まず血液検査を行い,甲状腺ホルモン(FT3,FT4),甲状腺刺激ホルモン(TSH),自己抗体(TRAb,TgAb,TPOAb)などを測定します.当院でも1 年に1-2例の甲状腺疾患を発見しています.その多くはバセドウ病で,発見のきっかけは甲状腺の腫れ,イライラ感,頭痛,学校心臓病検診における頻脈など,多彩です.

ご心配な方は当院にご相談ください.適切に検査,診断します.