インフルエンザの診断には,迅速診断キットを用います.ウイルス量が少ないと陽性を示しません.学校,保育所で熱が出てあわてて受診するお子さんが数多くいますが,こうした場合にはたとえ真にインフルエンザであっても検査上陽性を示すことは少ないです.発熱後,最低でも6-7時間以上,一般的には12時間程度経過しないと陽性になりません.37℃台の微熱では,陽性を示すことはまれです.高熱が生じて一晩経過すると陽性を示すことが多いので,受診のタイミングが大切です.

インフルエンザ迅速診断キットの使用は,保険診療上,「1エピソードについて発熱後48時間以内に2回まで」「同日の再検査は不可」「最終検査から1週間以内の再検査は不可」となっていて,その使用には制約があります.以下に例を示しました.

(例)
月曜日:37.9℃,インフルエンザ迅速検査陰性(保険適用)
火曜日:38.5℃,インフルエンザ迅速検査陰性(保険適用)
水曜日:39.0℃,インフルエンザ迅速検査陽性(全額自費:再診料+検査料+薬代などで1万円以上,混合診療は禁止)
(*次の週の火曜日にならないと保険適用でのインフルエンザ迅速検査不可)

(例)
月曜日:37.9℃,インフルエンザ迅速検査陰性(保険適用),その後発熱なし
金曜日:40.0℃,インフルエンザ迅速検査陽性(全額自費:再診料+検査料+薬代などで1万円以上,混合診療は禁止)
(*次の週の月曜日にならないと保険適用でのインフルエンザ迅速検査不可)

(例)
月曜日:37.9℃,インフルエンザ迅速検査陰性(保険適用),その後発熱なし
木曜日:40.0℃,インフルエンザ迅速検査陰性(全額自費:再診料+検査料+薬代などで数千円,混合診療は禁止)
(*次の週の月曜日にならないと保険適用でのインフルエンザ迅速検査不可)

抗インフルエンザ薬には有熱期間の短縮効果しか証明されていません.数時間早く服薬しても,生命予後を劇的に改善するあるいは合併症を大幅に軽減する効果は証明されていません.

インフルエンザの合併症で最も恐ろしいのは,インフルエンザ脳症です.インフルエンザ脳症は全身のサイトカインストームすなわち免疫系の過剰反応によって起こると考えられています.

私が今まで経験した症例で最も急激な経過で死亡したのはインフルエンザ脳症のなかの「出血性ショック脳症症候群」でした.20数年前のある冬の日,私は新潟大学医学部附属病院小児科病棟の当直をしていました.近隣の病院から救急車で運び込まれた幼児の全身状態は極めて不良で,心肺停止の状態でした.蘇生を試みましたが,気管チューブから血が吹き出て,腹部は紫色に膨れていました.肺出血と腹腔内出血でした.前日昼頃の発熱から死亡までの全経過は10数時間で,死亡しました.当時,抗インフルエンザ薬はありませんでした.

当院は開設して22年になりますが,この間に3例のインフルエンザ脳症が発生しています.1例は死亡,2例は後遺症という転帰でした.死亡した1例は,午前中に当院を受診してインフルエンザ迅速検査が陽性でした.タミフルを処方し,朝の分を直ちに服用し,その後夕食後にもう1度服用しました.夜間,痙攣が起きて救急車で搬送されました.病院のナイトベッドで就寝していましたが,翌日の未明にトレイに自分で歩いて行こうとしたところ2回目の痙攣とともに心肺停止に陥り,蘇生術に反応せず,死亡しました.

インフルエンザ脳症は多くの場合発熱後24時間以内に痙攣で気付かれますが,その時点では既に全身のサイトカインストームが起きています.抗インフルエンザ薬のインフルエンザ脳症に対する発症予防効果は証明されていませんし,発熱後に抗インフルエンザ薬を服用してもおそらく間に合いません.インフルエンザ脳症は,決して珍しい疾患ではありません.交通事故と同様に,誰にでも起き得ます.

周辺でインフルエンザの流行がないのに,発熱のたびにインフルエンザ迅速検査を希望される方がいますが,前述したような制約があります.むやみに検査をするよりも,インフルエンザワクチンの接種を早目に受けておく方が賢明です.