2019年11月,当院周辺でマイコプラズマ感染症が流行しています.

マイコプラズマ感染症は,Mycoplasma pneumoniaeというウイルスと細菌の間に位置する微生物が原因です.小児の非定型肺炎の起因菌として重要です.飛沫感染しますが,感染力はそれほど強くなく,家族や同一学級などの密接な環境下で伝播します.潜伏期間は1-3週間程度と考えられています.主な症状は,発熱,咳,頭痛,鼻汁,倦怠感です.病初期には乾いた咳ですが,次第に湿った咳になっていきます.肺炎を起こすことがあり,「マイコプラズマ肺炎」と呼びます.気管支喘息の発作を誘発して,胸がゼイゼイすることがあります.

マイコプラズマ肺炎は,以前は4年に1度流行していました.このため「オリンピック肺炎」と俗称されていましたが,近年はこのパターンは崩れています.日本国内では,最近では2011-2012年に大流行しました.

Mycoplasma pneumoniaeの細胞膜には強力なサイトカイン誘導物質であるリポ蛋白が,細胞質にはヒトの体細胞と交差抗原性を有する糖脂質やリン脂質が含まれています.このため,ヒトの免疫系を過剰に刺激し呼吸器以外にも症状を引き起こします.3-4%に中枢神経症状(髄膜炎,脳炎),8-15%に消化器症状(下痢,嘔吐,食欲不振,肝機能異常),3-30%に発疹などを生じることがあり,臨床像は多彩です.マイコプラズマに感染後には血中抗体が上昇しますが,この抗体は2年程度で低下してしまうので再感染することがあります.終生免疫は得られません.

一般臨床におけるマイコプラズマ感染症の診断は,迅速検査またはLAMP法による抗原の同定,血中抗体価の上昇により行われます.迅速検査は結果が10-20分程度で判明するという利点がありますが,抗原量が少ない場合には陽性を示しません.最も鋭敏な遺伝子検査に比べると,迅速検査の感度は60%程度です.検体採取の手技にも影響され,やや信頼性が劣ります.LAMP法はマイコプラズマの核酸を検出する高感度の遺伝子検査で,発症後2-16日目に陽性を示します.ただし,結果が判明するまでに1-数日を要します.血中抗体価は,発症後1-2週間しないと上昇しません.発症直後の血液検査ではマイコプラズマ感染症と診断することはできません.確定診断には,1-2週間をおいての複数回の抗体検査が必要になります.乳児,若年幼児では抗体が上昇しない場合があり,確定診断できないことがあります.保険診療上,迅速検査,LAMP法,血中抗体価を1-2週間以内に併用検査することは認められていません.

マイコプラズマ肺炎では,レントゲン上明らかな肺炎を呈する症例でも,聴診上異常な呼吸音が聞こえない場合がしばしばあります.このような症例では,レントゲン撮影をしないと肺炎の有無が分かりません.

Mycoplasma pneumoniaeは細胞壁をもたないので,通常のペニシリン系,セフェム系抗菌剤は無効です.治療には,マクロライド系抗菌薬(商品名:ジスロマック,クラリス)を第1選択薬として用います.2000年頃より,これらの薬剤が効かない「耐性マイコプラズマ」が増加しています.48時間以上解熱が認められない場合には,フルオロキノロン系抗菌薬(同:オゼックス)またはミノサイクリン系抗菌薬(同:ミノマイシン)の使用が推奨されています.ミノマイシンは歯牙の黄染の副作用があるため,8歳未満では使用できません.

マイコプラズマ感染症は,最も軽い場合には「咳かぜ」で終わってしまいます.中等症では肺炎になり,喘息発作が起こります.私が経験した最重症例は7歳の男児でした.当時,私は大学病院に勤務していました.重症肺炎に胸膜炎,Stevens-Johnson症候群,播種性血管内凝固症候群を併発し,高熱,激しい咳,呼吸困難,胸痛,口唇および肛門粘膜のただれ,眼球結膜の充血などの症状を呈し,血液検査ではCRP高値,白血球数著増,血小板数および凝固因子の低下などが認められました.抗菌剤やステロイド剤の投与により救命し得ましたが,退院までに1カ月以上を要しました.

咳が続く場合には,マイコプラズマ感染症の可能性があります.早目に受診してください.当院で適切に診断,治療をします.