一般的に生産年齢人口は15-65歳と考えられています.65歳以上,15歳未満は労働力としてあてにはできない年齢層です.なぜかというと,老人はからだの機能が落ちて行きますし,子どもは発育発達途上にあるからです.

老人は成年よりもからだの機能が劣ることは理解されていますが,子どもは単に成人を小さくしたものと勘違いされることがあります.

子どもでは様々なからだの機能が未熟です.したがって,子どもは病気によくかかる,ということになります.さらに,種々のウイルス感染では終生免疫を獲得するものがあります.これらの疾病は1度かかってしまってしまえば生涯かからずに済みますが,当然その罹患年齢は小児期になります.これらの事実が,子どもは病気によくかかる,という結果を生みます.

これに加え,昨今は気管支喘息,アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患をもつ子どもが増加しています.従来は子どもが医療機関を受診する場合には感染症がほとんどでした.しかし,予防接種の普及,抗生物質の充実,抗ウイルス剤の開発などにより,感染症の患者さんは減少してきています.現在でも小児医療では感染症が最多ですが,アレルギ-疾患がかなりの部分を占めるまでになっています.子どもの疾病構造が変化してきています.

それでは,医療費負担について考えてみましょう.

日本の公的医療保険制度では,社保本人2割,社保家族と国保3割が自己負担です.老人には国が老人保健法という法律を定めていて,医療費の自己負担軽減という制度があります.国の財政事情,老人医療費の高騰などの理由により,老人保健法は改定が図られ,2001年1月からは1回800円,1月4回まで(月額3200円)または1割負担,ただし月額3000円までの負担になりました.しかし,それでも自己負担3割の子どもからすれば夢のような負担の少なさです.

従来より,子どもにも,老人保健法と同様の法律,すなわち小児保健法の必要性が指摘されてきましたが,国はいっこうに重い腰を上げません.医療費負担が,老人は軽く,子どもは重いという事実は放置されたままでした.同じ日本国民でありながら,また同じ社会的弱者でありながら,老人は老人保健法により国に厚く守られているのに,子どもは誰も守ってくれません.これは明らかに不平等です.

さきほど述べましたように,子どもではアレルギー性疾患が増加しています.小児の気管支喘息では喘息の薬代だけで月に6000-7000円の自己負担が生じます.アレルギ-性疾患を持っている子どもは感染症によくかかりますので,医療機関の受診回数も多く,この薬代のほかに,診察代,他の薬代の支払いも生じます.結局,1月の自己負担額は10000円近くにのぼります.

日本では長年の労働慣行で年功序列に基づいた賃金体系がとられています.子育て世代,つまり30歳前後の給与水準は40-50歳代に比べかなり低く抑えられています.子育て世代には子どもの医療費は重い負担です.
アレルギ-性疾患は家族集積性,遺伝性がある疾病ですので,兄弟姉妹そろって気管支喘息,アトピ-性皮膚炎,という御家庭はよくあります.2人,3人と気管支喘息のお子さんがいたら,家計は火の車です.実際,気管支喘息なのに受診を控え適切な医療を受けていないお子さん,毎月25日の給料日前には薬の処方を希望しない親がいます.

子どもの医療費負担は深刻な問題なのですが,国は何もしてくれません.住民の求めに応じて,都道府県や市町村で乳幼児医療費助成制度を実施しています.都道府県が実施を決めた場合には,都道府県1/2,市町村1/2の負担になります.都道府県が実施をせず市町村が実施を決めた場合には,市町村負担になります.都道府県や市町村によって入院外来別,対象年齢にかなりの違いがあります.子どもに手厚い自治体もあれば,そうでないところもあります.また,自己負担分のあるところもあれば,親の所得制限を設けているところもあります.国が何もしないので,自治体が独自に助成制度を設けなければならない結果,こうした違いが生じてしまいます.

現在は老人保健法に基づいて医療が行われています.これに加え,老人の増加により,老人医療費の増加は深刻な財政問題を生んでいます.多くの健康保険組合が老人保健法に基づく拠出金が重荷になっていると表明しています.

小児保健法を制定し,老人と同じような医療制度が動き出すと,不要な検査や薬剤投与が横行し,医療費が無制限に増加することを危惧する方がおられますが,老人と同じ事態にはならないと思います.老人の場合には,医療を受ける人と医療費の自己負担分を支払う人が同一です.しかし,子どもの場合には,医療を受けるのは子ども本人ですが医療費の自己負担分を支払う人は親です.したがって,老人医療においてよりも小児医療においての方が,医療を受ける側が客観的にその医療の必要性を判断できます.子どもには余計な薬を飲ませたくない,という考えが親には当然ありますので,不要な薬剤投与も老人医療のようには起こり得ないと考えます.

子どもも老人も同じ日本国民なのです.小児保健法が制定され,老人と同様の医療を受ける権利が子どもには当然あるはずです.乳幼児医療費助成制度では拡充の方向に向かってはいますが,現行の制度はすべての子どもが等しく十分な医療を受けられる環境にはありません.乳幼児医療費助成制度の拡充は当然ですが,小児保健法が制定されることを望みます.
(2001年2月23日記)