平成6年に予防接種法が改正され,ポリオ以外の予防接種は全て個別接種が原則になりました.従来より実施されていた集団接種は廃止されました.しかし,法律改正を受けてもすべての市町村が対応できない恐れがあるので,集団接種が「みなし個別接種」として例外的に残されました.

人口の多い市町村は財政力があり,接種可能な医療機関があるので,平成6年の法律改正直後に個別接種に移行しました.しかし,人口の少ない市町村では,法律改正後7年を経過した現在も個別化していません.

新潟県は人口が240万人なのに市町村数が111もあり(全国3位です),人口5000-10000人くらいの町村がたくさんあります.こうした町村の多くは集団接種のままです.
1年に1度しか接種の機会がないので,体調不良などで接種を受けられない場合には1年間待たなければなりません.心臓病,てんかん,気管支喘息などの基礎疾患を持っているお子さんは,集団接種で十分な対応を受けることは不可能です.

このようなお子さん方にも接種の機会を設けなければなりません.そこで,住民票のある市町村以外の医療機関でも個別接種を受けられる制度が必要ということで,広域的予防接種制度が創設されました.この制度の創設にあたっては,個別接種を既に実施していた市町村間で接種料金の違いが問題になりました.もともと接種料金を低く設定した市町村では,広域的予防接種の料金が高いと,この制度に参加できないということでした.

私達小児科医は,個別接種の普及を急ぐ必要があること,接種希望者の不便,不都合の解消を急ぐ必要があること等を勘案し,接種料金については大幅な譲歩をしたうえで,広域的予防接種制度を創設するように新潟県に申し入れました.

このようにして,新潟県では全国に先駆けて広域的予防接種制度の運用が開始されました.この制度では,医療機関が新潟県医師会と契約を結び,新潟県医師会はこの制度に参加を表明した市町村と契約を結ぶという契約形態になっています.契約の文書では,接種希望者が契約医療機関を訪れた場合には,市町村の許可なしに接種を受けることができます.接種券,問診票などの書類一式は新潟県医師会から医療機関に配付されており,医療機関窓口にいつでも用意されています.

しかし,現実にはいろいろなトラブルが起こっています.以下に述べることは,私が最近経験した事例です.A町に住民票のあるB君がいます.A町はいまだに集団接種です.しかし,B君は気管支喘息で入退院を繰り返しており,麻疹の集団接種の機会を逃してしまいました.B君は2歳になろうとしています.現在,日本全国で麻疹が流行しています.B君のお母さんは,新聞で,麻疹が流行していること,麻疹は死亡率が高いことを知り心配になりました.A町の役場に出向いて,「とても来年まで集団接種は待てないので,個別接種の接種券の交付をして欲しい.」と言いました.
A町は集団接種のままですが,広域的予防接種制度に参加しています. A町の予防接種担当者はB君のお母さんに,「集団接種が原則である.」「接種券の交付は特別の事情がない限りまかりならない.」「そんなに個別接種を受けたければ自己負担で受けるしかない.」と説明したそうです.困り果てたB君のお母さんは,「この子は気管支喘息で入退院を繰り返していて,集団接種の日には発作が出ていて入院をしていた.とても来年までは心配で待てない.今後も集団接種の日に体調がよいとは限らない.」と30分以上も涙ながらに訴えてやっと接種券をもらったそうです.