日本では1978年から小児への麻疹ワクチンの接種が開始されましたが,いまだに小中規模の地域的流行が繰り返されています.2000年には沖縄で,2001年には大阪府,高知県,北海道,岩手県,千葉県,滋賀県,岡山県,香川県,大分県などで地域的流行が確認されています.各地からの報告では,罹患者の95.1%がワクチン未接種であり,このような流行の実態は接種率の低さに因るものと考えられています.

流行の中心は予防接種を受けていない1歳代,6-12カ月の乳児であり,2歳以後でも予防接種を受けていない幼児,学童,さらに成人までもが罹患し,2000年の患者数は20万人にのぼり,年間で肺炎4800例,脳炎55例,死亡88例が発生していると推計されています.地域によって差があるものの麻疹ワクチンの接種率は76-80%ですが,流行阻止のためにはこれを95%以上にする必要があります.

流行が大きかった沖縄県では2000年秋から2001年夏の約10カ月間に,感染症サーベイランスの小児科34定点から1006例,基幹病院7定点から成人31例の患者発生が報告されました.2001年4月には,9カ月女児の死亡例,また妊婦の感染による自然流産例も散見されています.沖縄県内13市町村では,緊急対策として6-12カ月未満児に対する任意予防接種を5-8月を中心とした期間限定で自治体の費用負担で行いました.

沖縄県福祉保健部,県予防接種対策協議会,県医師会,県小児保健協会,沖縄はしか“0”プロジェクト委員会は連名で以下のように「麻疹流行阻止緊急アピール」を発表しました.その内容は,(1)1歳の早期の麻疹ワクチン接種を保護者へ徹底させること,(2)1歳児の接種率の目標を95%以上とし,市町村は予防接種行政を強力に推進すること,(3)保育所等は園児等の接種歴の把握と感受性者への接種勧奨を行うこと,(4)保健・医療機関は予防接種の正しい知識の普及に努めること,(5)麻疹は小児だけの感染症ではないことを認識すること,でした.

新潟県でも2000年の春から夏にかけて麻疹の小流行がありましたが,その後は散発的患者発生に留まっています.しかし,最近の2-3年間でも小児の死亡例が確認され,今年に入ってからは成人の罹患例も報告されています.他県での流行は対岸の火事ではありません.

自由の国,個人権利が強く保護されているアメリカ合衆国でさえ,小学校入学時には麻疹ワクチンが接種済であることを確認しないと入学させてくれません.接種率は95%以上に達しており,アメリカ合衆国内では麻疹の患者発生はほとんどありません.ごくたまに患者発生があると,その多くは国外から持ち込まれた「輸入麻疹」です.遺伝子解析をすると,麻疹ウイルスは日本からやって来たものであることが明らかにされており,日本は「麻疹輸出国」のレッテルを貼られています.

昨年来の日本での麻疹流行はとても文明国とは言えないもので事態はかなり深刻なのですが,平和ボケで危機意識のない日本人にはピンと来ないようです.現在まで小児科医,保健婦らが接種率向上のため努力して来ましたが,これ以上の接種率の向上は現状のままでは困難であり,行政サイドの政策上の強化が必要です.

具体的な方策としては,沖縄県で出された「麻疹流行阻止緊急アピール」が速やかに実行にうつされることです.これに加えて新潟県では以下の点が必要です.(1)平成6年の予防接種法の改正により,麻疹ワクチンを含めた予防接種は原則として個別接種として実施されることになりました.しかし,改正後7年も経過したのに,新潟県内にはまだ集団接種のままの市町村がたくさんあります.集団接種では接種日が限られているので,1歳の早期に接種することは到底不可能です.早急に個別化を完全実施すべきです.(2)新潟県では広域的予防接種制度があり,たとえ集団接種のままの市町村のお子さんでも,いつでもどこでも接種を受けられる体制があります.しかし,この制度を利用すると予算が食われるという理由で,制度の存在を行政サイドは積極的には広報していません.よい制度がある以上,この制度の存在を住民に知らせるべきです.

1歳になったら直ぐに麻疹ワクチンを接種しましょう.誕生日のプレゼントやケーキと同じくらいに,麻疹ワクチンはお子さんにとって大切なものです.もし,周辺で麻疹が流行した場合には,たとえ1歳にならなくても麻疹ワクチンを接種してください.ただし,この場合には任意接種扱いで自費になります(沖縄県では行政サイドの理解があって自治体が負担しましたが,多くの患者発生があった後に実行されました).

1歳未満で麻疹ワクチンを接種した場合には,母体からの移行免疫の影響により抗体産生が不十分になることがあるので,1歳6カ月になったら2回目の麻疹ワクチンを公費で受けてください.