最近,テレビ,新聞,雑誌などで「ヘリコバリター・ピロリ菌」という名前を見聞きすることが多くなりました.既に御存知の方もいらっしゃると思います.

ヘリコバリター・ピロリ菌は,1982年にオーストラリアで発見された細菌です.ヘリコバリター・ピロリ菌の「ヘリコ」は,乗り物のヘリコプターの「ヘリコ」と由来は同じです.ヘリコバリター・ピロリ菌にはヘリコプターのプロペラのような部分があり,この部分が胃粘膜にがっちりと刺さって,胃内に住み着いてしまいます.胃内は胃酸によって強酸性になっているので,通常の細菌は死滅してしまうのですが,ヘリコバリター・ピロリ菌はアンモニアなどのアルカリ性物質を産生し,これで自身の表面を被い,胃酸から自らを守ります.

日本人のうち約6000万人がヘリコバリター・ピロリ菌に感染していると言われています.感染率は若年者で低く,中高年者では約70%に達します.胃・十二指腸潰瘍の原因になることが解明され,プロトンポンプ阻害薬+抗菌剤2種の3剤併用療法で除菌でき,昨年末から成人の潰瘍には保険診療ができるようになりました.

2001年9月14日付の新聞各紙に,ヘリコバリター・ピロリ菌は胃ガンの原因であることが大規模な長期観察で確証されたという記事が掲載されていました. 広島県の呉共済病院では,1990年から1993年までの間に,胃の内視鏡検査と血清抗体法などでヘリコバリター・ピロリ菌感染の有無を厳密に調べました.感染していなかった
280人と感染していた1246人の計1526人(平均年齢52歳)について,平均7.8年,1-3年ごとに内視鏡で胃を観察しました.ヘリコバリター・ピロリ菌に感染していなかった人で胃ガンの発生はありませんでした.これに対して,感染していた人では2.9%に当たる36人に胃ガンが発生していました.ヘリコバリター・ピロリ菌の持続感染で粘膜に胃炎が広がると,胃ガン発生の危険が高いことが裏付けられました.

さて,ヘリコバリター・ピロリ菌は子どもとは関係ないんじゃないか?,胃潰瘍や胃ガンは大人の病気じゃないか?,と思われるかもしれません.ところが,最近の研究ではヘリコバリター・ピロリ菌の感染は5歳までの乳幼児期に成立することが分かって来ました.6歳以上の年長児や成人では胃内環境が強酸になるため,ヘリコバリター・ピロリ菌が胃内に入って来ても感染は成立しないのだそうです.

ヘリコバリター・ピロリ菌が乳幼児にどのような経路で感染するかについては,(1)井戸水による感染,(2)ヘリコバリター・ピロリ菌を保菌している親からの食物の口うつしによる感染,などが疑われていますが,未だ確定的なことは不明です.

医療や医学の進歩にはめざましいものがあります.ヘリコバリター・ピロリ菌が胃潰瘍や胃ガンの原因のひとつであることが解明されました.将来的には,乳幼児期のヘリコバリター・ピロリ菌の感染予防の方法が確立され,それが成人期以後の胃潰瘍や胃ガンの発病阻止に繋がる可能性があります.