現在,日本では,麻疹などの感染症の蔓延を防ぐために予防接種法という法律が施行されています.乳幼児の麻疹ワクチンなどが自己負担なしに無料で接種を受けられるのは,この法律の存在があるからです.
平成13年10月の国会で,予防接種法が改正されました.今回の改正の要点は以下の通りです.
第1に,高齢者を対象としたインフルエンザワクチンの接種を推進するために,対象疾病にインフルエンザが追加されました.
第2に,対象疾病を1類疾病と2類疾病に分類しました.1類疾病は改正前の同法に定められていた麻疹,風疹,ジブテリア,百日咳,破傷風,ポリオ,日本脳炎で,2類疾病はインフルエンザです.1類疾病については,集団予防(集団として感染症蔓延を予防するという意味です.集団接種を行なうという意味ではありません.)に比重をおいてワクチン接種を行なうものであり,接種について努力義務(=接種を受けるように努めなければならない)が課せられています.これに対して,2類疾病については,個人予防に比重をおいてワクチン接種を行なうものであり,個人の発病や重症化防止およびその積み重ねとして間接的に集団予防を図ることを目的としており,あくまでも被接種者の意思によるもので努力義務が課せられていません.
第3に,ワクチン接種に伴う副反応や後遺症被害に対しての補償は,1類疾病については従来通り予防接種被害救済制度により,2類疾病については医薬品副作用被害救済制度により行なうこととなりました(後者は前者よりも補償額は低額になっています).
第4に,意思確認のできない者(痴呆等による場合を含む)に対しては原則として接種できませんが,家族のより確認できる場合は接種が可能となりました.今回の改正に伴い,65歳以上の高齢者,60歳から65歳未満の心臓,腎臓または呼吸器の機能に障害のある者が,インフルエンザワクチンの一部公費負担の対象者になりました.接種料金は新潟県内では1回4801円で,このうち1050円は被接種者の自己負担となり,3751円は市町村等が負担することになりました.
一方で,乳幼児に対するインフルエンザワクチンを公費負担の対象とすることは見送られました.同じ日本国民にもかからわず,高齢者は税金による補助を受けることができるのに,乳幼児は受けることができません.乳幼児を含む小児はインフルエンザワクチンの接種を全額自己負担で受けなければなりません.
この理由として,国は,乳幼児についてはインフルエンザワクチンの接種の安全性や有効性が十分に確認されていないからであることを理由としています.はてさて,実際はどうなのでしょうか?
日本で得られた高齢者に対してインフルエンザワクチンが有効であるというデータの多くは,老人保健施設を対象としたものです.インフルエンザワクチンを接種するとインフルエンザによる疾病罹患,合併症,超過死亡が減少するという結果が得られています.しかし,これらのデータは一般の人の出入りが無いか非常に少ない閉鎖社会についてのもので,その有効性を一般社会にまで拡大解釈しているに過ぎません.一方,乳幼児についてデータがないのかというと,そうではありません.乳幼児についても,インフルエンザワクチンを接種すれば抗体価が上昇する,有熱期間が短縮する,最高体温が低くなるなどのデータが既に得られています.現時点では,インフルエンザワクチンが乳幼児に対しても有効であることは疑いがないのですが,国がその有効性や安全性の確認作業を怠っているということになります.
日本ではいつも高齢者についての対策が優先され,乳幼児は後回しになっています.老人保健法があるのに小児保健法がないのも全く同じ理由によります.
毎年,冬になると,100-200人程度のお子さんがインフルエンザ脳炎・脳症になり,命を落とすか,重い後遺症を残しています.こうした悲劇を少しでも減らすためには,高齢者と同様に,乳幼児のインフルエンザワクチンも予防接種法の対象とし,一部公費負担を行なうべきと考えます.