成長に不可欠な鉄の需要が急激に増す乳児期後半から幼児期に,牛乳を多量に摂取することで鉄欠乏性貧血と低蛋白血症を呈することがあり,これを一般に「牛乳貧血」と呼びます.

牛乳貧血は,市販の牛乳1日600mL以上を3カ月以上継続して摂取した場合に発症します.3歳以下に起こります.顔色不良が主症状で,浮腫(むくみ),腸管出血が生じ,蛋白漏出性胃腸症を合併することがあります.検査所見としては,小球性低色素性貧血,血清鉄低値,低蛋白血症(6.0g/dl以下)を呈します.このほか,血清銅低値,血清総鉄結合能の比較的低値,便潜血反応陽性,牛乳に対するアレルギー反応陽性を示すことがあります.

乳幼児の鉄の1日必要量は6-8mgです.100mL中の鉄含有量は,調整粉乳(粉ミルク)が0.78mg,フォローアップミルクが1.0mg,母乳が0.2mg,普通牛乳が0.1mgです.母乳からの鉄吸収は摂取量の約50%で,牛乳からの鉄吸収は摂取量の約10%です.一般に母乳栄養児は人工栄養児に比べ鉄欠乏性貧血に陥りやすいのは,鉄含有量に大きな違いがあるからです.牛乳は母乳よりもさらに鉄含有量が少なく消化管からの鉄吸収率が悪いため,牛乳に偏った栄養状態では鉄欠乏が生じやすくなります.

牛乳貧血の発症機序については,まだ一定の見解はありません.前述した通り,乳幼児期は鉄需要が増すこと,牛乳は鉄含有量が低く鉄吸収率が悪いという要因があります.牛乳貧血児の小腸生検組織では腸絨毛の高さが正常よりも低く,腸上皮内のリンパ球およびIgA含有細胞数も正常よりも減少していたという報告があります.しかし,他の報告では組織学的な検索は十分には行われていません.牛乳貧血児にはアレルギー素因があり,牛乳やその成分であるβラクトグロブリンに対するIgERAST陽性が報告されていますが,IgEによるI型アレルギーだけでは説明がつきにくく腸管粘膜局所における他の免疫学的機序の存在が示唆されているが詳細は不明です.

乳幼児が大量かつ長期に牛乳を摂取し顔色不良や浮腫がある場合には,牛乳貧血が疑われます.「牛乳=栄養価が高い健康食品」というイメージがありますが,鉄含有量は低いです.飲み過ぎには注意しましょう.