なぜ麻疹に接触した場合に緊急予防措置が必要なのか?

(1)麻疹(はしか)は昔から「命定め」と呼ばれ,医学医療の発達した現在でも直接の治療法はなく死亡率の高い疾患です. 1000人に1人は死亡します!!

(2)1年間に日本では50-100人のお子さんが麻疹で死亡しています.

(3)麻疹は極めて感染力が強く,すれちがっただけで感染することがあります.
麻疹は発病当初は発熱,咳,鼻汁などの症状しかないので,風邪と区別ができません.
実はこの時期がもっとも感染力が強いのです.その後一旦解熱し,再度発熱をすると同時に麻疹特有の症状である全身性の発疹,口腔粘膜のコプリック斑が出現し,はじめて麻疹と臨床的に診断できます.

麻疹の感染を疑われた人が本当に麻疹かどうかは,数日経過を観察し麻疹抗体価の検査結果を待たなくては確定診断できません.
一方,以下に述べる緊急予防措置は麻疹と接触してから数日以内に実施しないと効果が期待できません.そのお子さんが麻疹かどうか確定診断してから実施したのでは,予防措置が間に合わなくなってしまいます.

私達小児科医は,たった1人のお子さんであっても死亡率の極めて高い麻疹にかかって欲しくない,2次感染が起こってしまって麻疹がさらに拡がることを防ぎたいと切に願っています.

緊急予防措置を是非受けてください!

麻疹(または麻疹風疹混合)ワクチンの接種を過去に受けたことがない方で,保育所,学校,医療機関等で麻疹(または麻疹の可能性が高い)患者と接触した場合には,以下に述べる緊急予防措置を是非受けてください.
ただし,以下をお読みいただき,十分にご納得いただいた場合に限ります.

緊急予防措置2つの方法

麻疹(または麻疹の可能性が高い)患者と接触した(=暴露を受けた)場合には,緊急予防措置が必要になります.この場合,以下の2つの方法があります.

【1】暴露後72時間以内の場合には,麻疹ワクチンの接種を受ける
【2】暴露後6日以内の場合には,ガンマグロブリンの投与を受ける

*暴露後7日以上経過していることが明らかな場合には,上記【1】【2】の緊急予防措置の対象になりません.この場合には,既に潜伏期にあることも十分に考えられますが,感染を免れている可能性もあるため,発症により重症化するリスクを考慮し,麻疹ワクチンの接種を検討します.

【1】暴露後72時間以内の場合には,麻疹ワクチンの接種を受ける

麻疹ワクチン毒性の強い野生株がからだの中で増殖する前に,弱毒化したワクチン株で免疫をつけてしまって野生株の増殖を抑え,麻疹の発症を防ぐ方法です.ただし発症予防効果は100%でありません.麻疹との接触から短時間なほど予防効果が高いです.

対象

・麻疹ワクチンは任意接種のため,自己負担になります.
・1歳未満のお子さんが麻疹ワクチンの接種を受けた場合,母体免疫の残存のために十分に抗体が獲得できない可能性があります.1歳6カ月になったら通常の公費負担による麻疹風疹混合ワクチンの接種を必ず受けてください.
・一般に,生後6カ月未満は麻疹ワクチン接種の対象になりません.

副反応

通常の麻疹ワクチン接種と同等の副反応が起き得る可能性があります.

接種不適当者

明らかな発熱を呈している場合,重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者,本剤の成分によってアナフィラキシーを呈したことがあることが明らかな者,明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する者および免疫抑制をきたす治療を受けている者,妊娠していることが明らかな者,このほか予防接種を行うことが不適当な状態にあるもの(その後のワクチン接種)麻疹ワクチン接種後4週間は,すべてのワクチンの接種を受けられません.

【2】暴露後6日以内の場合には,ガンマグロブリンの投与を受ける

ガンマグロブリンガンマグロブリンは,健康成人の血液から抽出したものでさまざまなウイルスや細菌に対する抗体を多く含んでいる製剤です.ただし発症予防効果は100%ではありません.

麻疹との接触から短時間なほど予防効果が高いです.ガンマグロブリンの効力は数カ月でなくなります.ガンマグロブリン投与後3カ月を経過したら早めに麻疹(または麻疹風疹混合)ワクチンの接種を受けてください.

対象

・筋注用ガンマグロブリンは保険適用がありますが,静注用ガンマグロブリンは適用がありません.
・母体が過去に麻疹に罹患したことがあるあるいは麻疹ワクチンの接種を受けていて麻疹に対する抗体がお子さんに残存していることが明らかな場合以外には対象になります.

副作用

ごくまれに,じんましんやショックを起こすことがあります.

禁忌

過去にガンマグロブリンの投与をうけてアナフィラキシーショックなどを起こしたことがある場合

その他

ガンマグロブリンは血液製剤です.使用開始から既に20年以上経過していますが,緊急予防措置では現在まで大きな問題は発生していません.
ただし,ガンマグロブリン投与後のパルボウイルス感染症,無菌性髄膜炎の発症が報告されています.また,未知の病原体の影響については不明です.

その後のワクチン接種

(1)ガンマグロブリン投与後3カ月間は,麻疹,風疹,水痘,おたふくかぜワクチンの接種は受けられません.ガンマグロブリンが体内に残存してワクチンの効力が失われる可能性があるからです.

(2)3種混合,2種混合,ポリオワクチンおよびBCGは接種を受けてかまいません.

その後の生活

緊急予防措置を受けた後の生活は通常通りでかまいません.ただし,緊急予防措置の効果は100%でありません.麻疹に感染した場合には,暴露後10−12日間で発熱が生じます.潜伏期間が延長する,軽症化する,非典型症状する場合もあるので,暴露後5-20日間,発熱,発疹等,麻疹を疑われる症状が生じた場合には,速やかに医療機関を受診してください.
その際には,他の方と接触すると感染が拡大してしまう可能性があるので,受診前にあらかじめお電話をいただき,通用口から個室に入っていただきます.